コロナ禍バブルは弾けてしまったのか

2021年はコイン全体が異常な値上がり

 2020年から始まったコロナ禍において、アンティークコイン市場にも非常に大きな変動が起きた。多くのコイン専門家やディーラーが指摘している通り、2021年にはアンティークコイン市場は空前の活況を呈し、この期間にコイン相場は大きく上昇した。2022年後半以降は、その反動で相場はやや下がったものの、コロナ前の価格に比べると、2023年前半の時点でも高値を保っている印象だ。

 新型コロナのパンデミックが発生してから、金融市場がどのような経緯を辿ったのか、簡単におさらいしておこう。株式市場における代表的な指標であるニューヨーク・ダウは、パンデミック発生直後の2020年2月から3月にかけて暴落、大底をつけて反発した後は一貫して上昇を続け、2021年には最高値を更新し、その後も上げ下げを繰り返しつつも高値を維持して現在に至っている。

 コロナの影響で勤務先が倒産したり解雇されたりした労働者層は窮地に立たされたが、その一方で初期の暴落局面で株式を買い増しできた富裕層は、その後の株価の大幅上昇で大きく儲けた。コロナ禍の約3年間で資産を減らした人と増やした人の明暗は大きく分かれる結果になった。

 コロナ禍の真っ只中だった2021年、世界各地で開催されたコインオークションでは高値落札が続出。コイン専門家が「この値動きは投機的すぎる」と心配するほど値が跳ね上がった。いわば、「コロナ禍バブル」のような現象が起きたのだ。

 この期間にコインの価格が急上昇したのは、いくつかの要因が重なったことが考えられる。2020年2月の株式暴落を見て現物資産へ資金をシフトする動きが強まったこと、本業の収入が減ったためコイン投資を検討する人が増えたこと、急回復した株式市場で儲けた人がレアコインを買い漁ったことなどが要因としてあげられる。

 2021年の市場が異常だったことは、本来はあまり投資には向いてないと思われる低価格帯のコインも一斉に値上がりした点である。通常、金融市場が混乱したり、大不況が訪れたりすると、高額のレアコインはディフェンシブ資産として資金の逃避先になるため価格が上がることはあっても、コレクターが趣味で集める低価格帯のコインの価格は下落するのがセオリーだ。不景気で可処分所得が減った一般コレクターが、趣味用コインの購入を控えるからだ。にもかかわらず、2021年はコインの価格帯に関係なく、すべてのコインの価格が大きく上昇した。おそらく、投資用の高価格帯コインが品薄になり、行き場を失った資金が低価格帯のコインに行かざるを得なかったためだろう。

 そのことは、コレクターの間でよく収集されるコインの値動きを示した指数「numindex」のグラフを見ればよくわかる。numindexは、主に欧州で取引される数万円から約30万円までの比較的低額な有名コイン30種類の値動きを指数化したものである。2020年2月から3月の株価暴落局面では、株価に連動するように大きく下げたが、その後は株価の上昇率をはるかに超えて価格が跳ね上がり、2022年前半にピークを迎えている。いずれにしても、2021年から2022年につけた価格はオーバーシュート(行き過ぎ)であり、今後数年間かけて落ち着く水準を模索するような動きになるのではないかと予想される。

高級腕時計は2022年2月をピークに値下がり

 実は、この期間は他の現物資産も大きく値上がりした。その一例が、高級腕時計である。日本でもロレックスの中古価格が高騰したという報道が何度もあったのを覚えている人も多いだろう。日本では、ダントツでロレックスの人気が高いため、ロレックスだけの特異現象と思っている人もいるかもしれないが、世界的にはほとんどの高級ブランドの腕時計が一斉に値上がりした。

 イギリスの中古腕時計ディーラーであるサブダイヤルが、ロレックスやパテックフィリップ、オーデマピゲなど人気上位50種類の価格を指数化した「サブダイヤル・ウオッチ指数」なるものを公表している。それによると、高級ブランドの腕時計価格は、2021年10月頃から上昇を開始し、2022年に入ると上昇スピードが一気に加速して2022年2月頃にピークに達した。しばらく高値を維持したものの、2022年4月には下落トレンドに入り、その後2023年1月頃まで一本調子下落していった。2023年に入ってからは安定する動きを見せているものの、2021年6月の水準を下回るところまで下げてしまった。

 コロナ禍で金融市場が混乱する中、短期転売目的の資金が流入したのが原因だろう。高級腕時計を趣味で何本も集めているコレクターはそれほどいないため、いったん下げに転じると転売ヤー同士の押し付け合いになって下がるところまで下がるしかなかったようだ。その点、アンティークコインは価格が下がるとコレクターの実需買いが入って価格を下支えするため、下落のスピードも幅も緩やかになるという特徴がある。

 コインや腕時計のようなコレクタブル資産は、価格変動率の差はあれ、コロナ禍の最初期は換金売りが出たものの、その後は値上がりして2021年から2022年に目先の天井をつけたものが多かったと推測できる。資金を運用したい投資家が考えることは、みんな似たようなものだから当然と言えようか。

 と言いつつも、私も「似たようなことを考えた」一人であることは間違いない。コロナ禍バブルの期間、株式投資で儲けた利益を現物資産にシフトした方がいいのではないかと考えてアンティークコイン投資を始めたのだから。その他大勢と同じ行動を取ってしまったので、2021年から2022年にかけて、アンティークコインの相場がピークの時に買う結果になってしまった。

 高級腕時計が急騰を開始した水準まで「行って来い」になってしまったのに対して、アンティークコインはコロナ前と比較してまだまだ高値水準を維持できている。そう考えると、アンティークコインのコロナ禍バブルは決して弾けてしまったわけではないことがわかる。コレクタブル資産の中でアンティークコインを選んだのは、現時点では間違いではなかったと思える。もっとも、数年だけの値動きで優劣を比較するのはナンセンスだ。10年、20年というスパンでアンティークコイン投資のパフォーマンスを見守っていきたい。

アンティークコインの価格も上下する

 2021年に急騰したコイン相場は、2023年以降、どういう動きをするのか、時間が経過してみないとわからない。前述のnumindexでは2023年に入って目先底を打ち、反転する兆しも見えてきているので、見通しはそれほど暗くないとも言えるだろう。2021年の高値で掴んだ人の中には、短期転売目的や資金力のない投資初心者が一定数は混じっていると考えるのが自然だ。そういう連中が失望売りに動けば、しばらくは軟調な値動きが続くかもしれない。しかし、コロナ前の水準まで大きく下げるような気配は全くない。2021年にあれだけ急騰したことが考えると、2023年に入っても堅調に推移しているとも言える。

 日本人投資家にとっては、為替相場の変動にも注意しなければならない。2021年の反動で2022年は若干反落した、と書いたが、それはあくまでもドルベースの話。ドル円相場は、2021年末には115円前後だったが、2022年に入ると急速に円安が進み10月には150円に接近した。2022年だけでも最大で30%近く円安になった計算だ。ドルベースでは2022年は若干安くなったが、2022年もコインの価格は続伸したと感じている日本人は多いかもしれない。今後、さらに円安が進むようなことになれば、円ベースの価格はさらに上昇することになる。アンティークコインはドル資産だと認識した方がいいかもしれない。

 レアコイン指数だと、アンティークコインは奇麗な右肩上がりで緩やかに上昇を続けている。指数の算出方法は詳しく知らないが、取引がなかった期間は、便宜上、前回の落札値をそのまま適用しているのではないかと想像する。指数だけ見ると、毎年コンスタントに上昇しているように見えるが、個々のコインの価格は結構、上下に変動している。目先の上げ下げは全然気にすることはない。そういった雑音に左右されず、がっちり長期間ホールドできる「正しいコイン」を選んでいるのだから。

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