アンティークコイン投資にはどのような勉強が必要か

コインを買う前に本やカタログを買え

 趣味の世界では、新たに始める人向けの入門書が用意されている。おそらく、アンティークコインに興味を持った人は、コインを買う前にアンティークコインに関する何からの書籍を購入した人が多いのではないだろうか。アンティークコインは、希少度の低い入門用のコインであってもそれなりに高価な買い物になる。アンティークコインの入門書を読んでも、「初心者はコインを買う前に本やカタログを買え」と書かれている。

 特にアンティークコインは広範な知識が必要とされる趣味である。アンティークコインのベテランコレクターは、例外なく書籍、文献、カタログなどの本代に多額の出費をしている。まして、投資としてアンティークコインに取り組むのであれば、こういった資料代は必要経費として惜しまずに使うべきだ。

 私も最初の1枚を買うまでに、コインディーラーが描いたアンティークコインに関する単行本5冊と、イギリスコインのカタログ(英文)3冊を買って勉強した。アンティークコイン投資を開始してからも、英文のカタログや冊子をイギリスの書店などから取り寄せている。さすがアンティークコイン収集が盛んなイギリスだけあって、アンティークコインに関する書籍も充実しているし、それらの書籍を通信販売しているサイトも多い。

 アンティークコイン投資のことについて、専門家から直接学んだ方が早いし効率的ではないか、と思う人もいるだろうが、現実的には難しいような気がする。そもそも初心者にアンティークコインのことを教えることをビジネスにしているコイン専門家は聞いたことない。コインディーラーの中には、初心者を集めて勉強会のようなものを開催している人もいるので、そのようなイベントに参加するのはアリだろう。踏み込んでそのディーラーの顧客になる気があるなら、アンティークコインに関して知りたいことを聞けるような関係になれるかもしれない。

 個人的な考えとしては、ある程度の知識レベルに達するまでは、本やカタログ、インターネット上のコンテンツを活用して独学で勉強するのがいいと思う。理由はいくつかある。誰かに学ぶとなると、直接的にしろ、間接的にしろ、かなりのコスト負担を覚悟しないといけない。学ぶ相手のレベルが高すぎると、教えてもらったことを過信しがちになるし、相手の好みやクセが知らず知らずに移ってしまう危険性もある。身近にベテランのコレクターやアンティークコイン投資を実践している先輩がいれば理想的だが、まずは独学を前提にして自分なりに勉強を進めるのが現実的だろう。

 私はこのブログの最初の記事「アンティークコイン投資を検討している人へ」の中で、アンティークコイン投資のことを「努力が報われる知的な趣味」と表現した。アンティークコイン投資は、勉強によって知識が増えるにつれて勝つ可能性が高まる。努力すればするほど、その努力は確実に報われる、という意味である。

コインの基礎知識を学ぶには「ECOINOMICS」がおすすめ

 つい先日、効率よくアンティークコインに関する基礎知識を学びたいという人に、最適と思われる本が日本で出版された。本格的なアンティークコインのガイドブック「ECOINOMICS(イーコインノミクス)」日本語版である。著者は、イギリス人アンティークコイン鑑定士のロバート・パーキンソン氏。とにかく彼の略歴が凄い。大学卒業後、イギリスのスピンクに入社、その後、アメリカのヘリテージ、イギリスのソヴリン・レアリティーズを経て、現在はイギリスのeBayでコイン部門を担当している。

 アメリカのヘリテージに所属していた頃は、イギリスコイン専門のシニアコイン鑑定士として、オークションカタログへの執筆なども行っていた。アンティークコイン鑑定士としてイギリスとアメリカを代表するオークションハウスで経験を積み、欧州市場とアメリカ市場の両方に精通している数少ない専門家である。その彼がスピンクから「ECOINOMICS」を出版したのは2022年6月のこと。約1年の時を経て、完全日本語版が日本で出版されたのである。

 ECOINOMICSの素晴らしい点は、アンティークコインのコレクターや収集家の立場にたって、基礎的かつ実践的な知識が網羅されていること。この1冊を読むだけで、アンティークコイン投資を始めるにあたって必要な基礎知識がほぼ習得できる。これらの知識が一冊に体形的にまとめた本は、かつて見たことがない。

 ECOINOMICSは、ページ数を贅沢に使って、コレクターや投資家に必要な基礎知識を丁寧に解説してくれているため、これからアンティークコイン投資を始めたい人にとっては、うってつけの入門書である。コイン収集を意味する英語numismaticsは、日本では「貨幣学」と訳されることもある。まさにアンティークコインを詳しく知ることは学問であり、ECOINOMICSは貨幣学を学ぶ人のための教科書と表現してもいいだろう。

 著者のロバートとは、彼がソヴリン・レアリティーズに勤務していた頃、同社が主催するオークションで知り合った。オークションに入札するにあたり、親身に相談に乗ってくれたが、彼からのメール文面を読むだけで、一流のヌミスマティスト(numismatist=コイン専門家)であることが十分に伝わってきた。2022年4月頃、彼から「私の執筆したECOINOMICSが間もなく出版されるので、よかったら買ってみて」とすすめられた。さらに、「約1年後には日本でも出版される予定だよ」と教えてくれた。その日本語版を手掛けるのが、日本のコインディーラーであるアンティークコインギャラリアということを後に知った。

 ECOINOMICS日本語版は、アマゾン、もしくはアンティークコインギャラリアのウェブサイトから注文できる。ぜひ、一流のヌミスマティストであるロバートの経験や知恵が詰まったこの本を読み込んで、アンティークコインに関する知識を一気にレベルアップして欲しい。(文中において、商号の敬称は省略させていただいた。)

アンティークコインギャラリア出版部
https://p.antique-coin-galleria.com/products/ecoinomics

オークションカタログを読めば効率的に勉強できる

 私はイギリスコインを投資対象にしているため、インターネット上のコンテンツが比較的簡単に入手できるので、おおいに助かっている。本場イギリスのコレクターの中には、非常に有益な情報を発信しているサイトもあり、投資しているジャンルの情報をほとんどコストをかけずに収集できている。

 アンティークコイン投資に関する知識を効率よく得たいのなら、私がおすすめする方法はヘリテージのオークションカタログをブラウザで読むことである。ヘリテージに限らず、オークションカタログを読むことはコインの勉強になるが、ヘリテージのオークションカタログはヘリテージ専属のコイン専門家の解説が詳しく書かれていることが多く、とても勉強になる。ヨーロッパのオークションハウスでは、ビジュアルメインでコインに関する蘊蓄や解説があまり書かれていない印象がある。

 ヘリテージのウェブサイトで、投資対象に決めた「正しいコイン」を識別できるキーワードを入力して検索してみよう。ヘリテージを今後も活用するなら、会員登録しておくといいだろう。会員登録してログインすると、検索結果に表示されたコインの落札価格を見ることができる。(ログインしていない状態だと、カタログの説明文や写真は見ることができるが、コインの落札価格は非表示となる。)

 例として、1864年銘プルーフハーフクラウン銀貨のページを取り上げる。イギリス銀貨のカタログであるESCを見ても、1864年のハーフクラウン銀貨が存在することはわかるが、なぜ流通貨の製造中断期間にこのプルーフ貨が発行されたのか、その事情についてはまったく記載がない。ヘリテージのコイン説明文を読むと、コイン専門家の間でも、1864年プルーフハーフクラウン銀貨が「Mysterious(謎めいた)」と呼ばれている理由が非常に詳しく書かれている。

The Mysterious Proof Halfcrown of 1864
https://coins.ha.com/itm/great-britain/great-britain-victoria-proof-halfcrown-1864-/a/3016-24424.s

 長文なので、途中で適当に区切って、翻訳サイト「DeepL」などにコピペして日本語に翻訳させてみよう。専門用語が多用されているので、おそらく出てきた日本語をそのまま読んでも意味が通じない個所も多いだろう。その部分の原文を見つけて、単語の意味を調べたり、Googleで検索をかける。そうしているうちに、自分が投資対象にしているジャンルでよく登場する専門用語や、レアコインの背景が少しずつ自分の知識として蓄積されるようになる。

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