アンティークコイン投資の第一歩は収集方針を決めること

収集対象を絞り込むべきか

 アンティークコインの世界は、とにかく広大で奥も深い。対象にするコインのジャンルが多岐に渡ってしまうと、コインが作られた歴史背景など、習得すべき知識の量が膨大になってしまい、時間がいくらあっても足りなくなってしまう。純粋な趣味であれば、テーマを決めずに出会ったコインを手当たり次第に集めていくという「ゼネラル収集」というやり方もあるが、投資を意識するのであれば、得意なフィールドで勝負すべきだと思う。

 フィールドの決め方は、特に決まりがあるわけではなく、各人が自由に決めればいい。コインを発行する国で選ぶ人もいれば、国は問わず年代で絞り込む人もいれば、特定の人物や風景が描かれているコインだけを対象にする人もいる。アンティークコイン投資は知識の量がモノを言うので、いずれにしても自分が興味のある分野、得意とする分野に特化するのが最も自然な考え方だ。

 その一方で、株式投資の世界では「卵は一つのかごに盛るな」という有名な格言があるように、投資であればリスクは極力分散させるべきだという考え方がある。特定の国に偏って投資してしまうと、何らかの理由でその国のカントリーリスクが急上昇した場合、売却が難しくなる危険性もある。では、国や年代、コインの性質などを分散させるべきだろうか。

 リスクヘッジを重視したい投資家が、次の3枚のコインに投資したと仮定しよう。「雲上の女神」という愛称で知られるオーストラリアの100コロナ金貨、古代ギリシャマケドニア王国のステーター金貨、モダンコインとして人気の高いイギリスのクイーンズビーストコンプリーター5オンス金貨。この3枚だと、国、年代も様々だし、純金の含有量が多いモダンコインも含まれているので、リスクヘッジを重視した「ポートフォリオ」としてはそれなりに機能しそうだ。この3枚のコインは、単体でもそれぞれ素晴らしいコインだし、市場性・将来性も十分ある。しかしながら、個人的には、これを「コレクション」と呼ぶのは微妙だと思う。なぜなら、この3枚を同時に保有する必然性を感じないからだ。(AKK)

 投資家には「コレクション」は必要ない、利益が期待できてリスクもヘッジできる「ポートフォリオ」を構築すべきだ、という意見もあるだろう。一理ある意見だと思うが、世界史に疎い私としては、国や年代を分散させることにどうしても抵抗がある。もし、私が世界史に造詣が深かったら、何の抵抗もなく、上記の3枚のコインに深い愛着を感じて、保有することに楽しみや喜びを感じていたかもしれない。

 結局は、自分が今持っている興味や知識を活かせるフィールドを選ぶのが最善ということだろう。私自身が全然知識がないのに、「これから人気化しそうだから」という理由だけで古代コインを投資対象を選ぶとうまくいかないのではないか。それが私の現時点での結論である。

私は「ワイオンが手掛けたイギリス銀貨」に設定

 ここからは私自身が決めた「戦うフィールド」について書いていきたい。あくまでも、私はコレに決めたというだけであり、決して、このテーマを推奨しているわけではないので、決めるに至った流れだけを参考にして、各自がそれぞれ自分のテーマを決めて欲しい。

 まず私は、国をイギリスに絞ることにした。実を言えば私は世界史には疎く、欧州に限ったとしても、せいぜい中学校の社会の時間に習う知識程度しか持ち合わせていない。過去にイギリスを旅行したことがあるとはいえ、特にイギリスに縁があるというわけでもないが、イギリスであればインターネットで英語の資料を簡単に参照できるという理由からイギリスにした。もちろん、英語なら読めるという日本人は多いので、たいしたアドバンテージにはならないことは承知の上だ。

 イギリスコインには長い歴史があり、年代によってコインの外見も製造方法も異なる。17世紀以前の、いわゆるハンマーコインはコインの見た目もばらつきがあり、デザイン的にもあまり好きになれなかったので、コインの製造技術がほぼ完成した19世紀のコインに対象を絞ることにした。ちょうど私がアンティークコイン投資を検討し始めた頃、ウナとライオンの復刻版プルーフ金貨が大きな話題になっていたこともあり、最終的には19世紀のコイン、しかも偉大なる彫刻師「ウィリアム・ワイオン」が出がけた「銀貨」に絞って投資することに決めた。

 天才と称賛されるワイオンは1816年に王立造幣局(ロイヤルミント)に採用された後、1828年にチーフエングレーバーに就任し、1851年に亡くなるまで数々のコインやメダルを作り続けた人である。彼の代表作は、1839年のウナとライオン5ポンド金貨、1817年のスリーグレイセス試作クラウン銀貨、1847年のゴチッククラウン銀貨と言われている。そのワイオンがデザインを手掛けたコインは、1825年から1887年にかけて流通した。この時期は、1837年にヴィクトリア女王が即位して、大英帝国が最も栄えた時期にちょうど重なる。この期間の銀貨(プルーフ貨、流通貨、試作貨)に絞って投資することにしたのである。

 正直なところ、この選択は投資家としてはあまり賢いものではないかもしれない。イギリスコインは日本人コレクターや投資家に昔から人気が高く、価格はすでに割高と指摘する人も少なくない。ウナとライオンの復刻版で話題になったワイオンが手掛けたコインは、ゴチッククラウンを筆頭に先行してかなり値上がりしてしまっている。要するに、私の選んだテーマは二重に高値掴みになる危険性があるのだ。投資家ならば、これから話題になりそうなテーマ、今は注目されずに割安に放置されているテーマを選ぶべきではないのか。しかし、私はアンティークコイン投資に関しては、最近始めたばかりの下っ端である。素直に現在のトレンドに乗ることにした。

 なぜ金貨ではなく、銀貨なのか?理由はシンプルで、銀貨の方が安いから。希少度の高い金貨を投資対象にするとなると、1枚だけで数千万円するものもザラなので、予算内でコレクションを構築するとなると、どうしても希少度ランクを落とさないといけない。それならば、希少度ランクの高い銀貨を集めた方がいいのでは、と考えた。それが正解かどうかは自信がないが、とにかく自分が信じる「正しいコイン」を追い求めるしかない。

コレクションとしての価値を高めるためには

 私が投資するテーマは、「ワイオンが手掛けたイギリス銀貨」に決まった。このテーマでポートフォリオではなくコレクションを構築していくことになる。ありふれたテーマなので、多くの先人たちの真似と思われるかもしれない。乏しい資金力でどこまでできるかわからないけれど、ワイオンの功績にスポットを当てるようなコレクションができればいいなと思っている。

 ポートフォリオとは、資産構成という意味の投資ではよく使われる言葉で、通常はリスクを補完し合う性質の異なる資産を組み合わせることを指す。ポートフォリオの本質は、リスクを管理することで資産価値を保全すること、つまり守りに重点を置いた資産運用である。そもそも、アンティークコインのような現物資産は金融市場が暴落に見舞われた際のヘッジになるので、金融資産の一部をアンティークコインに振り当てるだけでリスクを軽減する効果がある。

 一方、コレクションには、リスク管理という概念は含まれていない。コレクションとは、揃えば価値が高まることを期待して、お互いが価値を高め合う組み合わせを考えるものである。1枚だけではたいした価値がなくても、すべての年号をコンプリートすると、さらに一定以上のグレードで揃えるとコレクションとして大きな付加価値が付く。どのコインを加えれば全体の価値が上がるのかを考えるのがコレクションの楽しみである。

 コインと切手は近い趣味としてよく比較されるが、コレクターとして両者が決定的に異なると思える点がいくつかある。その一つが、コインにはコレクションの素晴らしさを競う全日本切手展やJAPEXのような展覧会がないこと。このような切手展では、コレクターが各自決めたデータに基づき、コレクションをアルバムリーフに整理して出品する。切手そのものだけではなく、テーマ、記述内容、レイアウトなどを総合判定して入賞者が決められる。いわばコレクターが学芸員になって自分のコレクションを展示するようなもので、独自の研究成果を発表する論文のような意味合いも持つ。コインは裏面やエッジも見せないと魅力が伝わらないので、切手のような平面的な展示は難しいことは理解できるが、コインには自分のコレクションを競い合う場が少ないのは寂しい気がする。

 アンティークコインに投資するからには、できるだけ多くの人に見てもらえるようなコレクションを作りたい。コレクションのテーマはできるだけマニアックなものがいいと思う。このコレクションを持っているのは世界で私だけ、というくらいマニアックでいい。自分の集めたコインが将来どれだけ人気が出るかとか、オークションに出せばいくらで売れるとか、そういうことはあまり気にしない。将来、売ることになった時に、私のコレクションをまとめて買いたい、というコレクターが一人いればいいのだから。(AKK)

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