安い価格帯のコインは投資対象にならないのか

投資に適したコインの価格帯

 YouTubeには、国内ディーラーが開設したアンティークコインに関するチャンネルがいくつか存在する。ディーラーがどのように考えているかがよくわかり、コレクターには非常に勉強になる。彼らは営業の一環として情報発信しているので、言ってることにディーラー間で差が出てくるのは仕方ない。その差異をどう咀嚼するかは、動画を見ているコレクターや投資家の裁量に委ねられるべきことだ。

 どのような価格帯のコインが投資に適しているかについても、ディーラー間でかなり意見が分かれる。あるディーラーは、「500万円以上の価格帯を狙うべき。100万円以下の安いコインを買ってる人は失敗しやすい」。それに対して別のディーラーは「100万円以下がダメとか、本質がわかっていない。希少度が高く投資に有望な30万円のコインもある」と反論する。また別のディーラーは、投資する人の収入によって、狙うコインの価格帯を決めることを推奨している。

 面白いのは、別のディーラーが動画でしゃべっている内容について、自分の動画の中でさりげなく反論していることだ。直接、SNSの投稿に反論のレスを書き込むと荒れるだろうけど、このように動画で意見をキャッチボールするのは見てて楽しい。

 高額コインを推奨するディーラーの言い分は、「希少性が高く、人気のあるコインが現時点で安いはずがない。今安いコインは高値がつかない理由がある」と結構説得力がある。日本で人気のギニー金貨やダカット金貨になると、状態がそこそこいい大きめのコインを買おうと思うと、たしかに500万円くらいが最低ラインになる。その一方で、希少度ランクが高く状態がいいにもかかわらず、100万円以下に放置されているコインが少なくないのも事実。そういう「出遅れた」コインを狙うのも投資の一つの形だとは思う。

 「正しいコイン」を選択するスキルがある前提なら、高額コインの方が投資効率がいい、という面はある。1000万円運用したいのなら、1000万円のコインなら1枚ですむが、200万円のコインなら5枚買わないといけないし、コインを選別する手間も5倍かかってしまう。その一方で、高額コインだと売却する方法がほぼオークションに限られるが、200万円から300万円なら値ごろ感もあり、ディーラーに委託販売に出すと比較的簡単に売却できる可能性も高くなる。

 結論としては、投資に適したコインの価格帯は、運用したい資金額や投資対象にするコインのジャンルによる、としか言えない。コインの需要を決める4要素(希少性、グレード、発行国、デザイン)に基づいて、予算内で自分に合ったコインを選ぶしかない。

安いコインは投資には向いていないのか

 当初から投資としてアンティークコインに取り組むのであれば、投資に適したコインを絞り込むべきだ。投資に適したコインの価格はそれなりに高くなる。数万円以下の極端に安いコインは避けた方がいいだろう。

 アンティークコイン投資の世界では、「予算の範囲で最高のコインを買え」という格言がある。この格言を文字通りに解釈するなら、1000万円の予算があるなら1000万円のコイン1枚を買った方がいい、という意味になる。しかし、実際問題として、アンティークコイン投資の初心者が予算のすべてを1枚のコインにつぎ込むのはハードルが高すぎる。投資開始直後に、自分にぴったり合った高額コインと巡り合えるのは奇跡に近いように思う。

 予算の関係上、あるいはリスクヘッジの観点から、価格が比較的安いコインで投資を始めたい、という人には、希少性やグレードは落とさず、サイズを落としてコインを選ぶことをおすすめしたい。アンティークコインの多くは、コインに使われている貴金属の量で額面が決まるので、サイズを落とすということは額面の金額を落とすということだ。たとえば、イギリスのクラウン銀貨が高くて手を出しづらいなら、同じデザインのハーフクラウン銀貨を検討してみる。ハーフという言葉が示す通り、ハーフクラウン銀貨はクラウン銀貨のちょうど半分の重量で作られている。

 アンティークコインは、サイズの大きいコインが好まれる傾向にある。それは市場価格を見るとはっきりとわかる。しかし、私はこの状況は今後、徐々に変わっていくのではないかと予想している。その理由は、第三者鑑定が普及してスラブに入れられたコインがスタンダードになりつつあるからだ。鑑定済みコインは、クラウン銀貨より小型の銀貨も、すべて同じサイズのスラブに収められる。

 裸の状態だと、クラウン銀貨とハーフクラウン銀貨では、手に持ってみると重みが全然違う。クラウン銀貨はハーフクラウン銀貨の2倍の重量があるのだから当然だ。しかし、スラブに収められてしまうと、重さの差はそれほど感じられなくなり、表面積だけの差になってしまう。表面積で比較すると、ハーフクラウン銀貨はクラウン銀貨の約70%、つまり重量より差は縮まる。(クラウン銀貨は厚いのだが、スラブに入ると厚さはあまり実感できなくなる。)サイズが小さいという理由で安く放置されてきたコインは、今後見直されるのではないだろうか。

コレクションの価値を高めるコインを買う

 そういう私も、実は安いコインを結構購入している。その一例としては、1825年ジョージ4世のプルーフシリング銀貨がある。このシリング銀貨は、表面はウイリアム・ワイオンが彫刻したジョージ4世の肖像(シャントレー卿が作った胸像をベースにデザインした肖像で、頭に王冠や月桂冠を乗せていないのでBare Headとも呼ばれる)、裏面は王冠の上にライオンが描かれた印象的なデザインが特徴。

 この組み合わせは、ジョージ4世のコインとしてはシリング銀貨とさらに小型の6ペンス銀貨にしか採用されておらず、ワイオンが手掛けたコインを語る上では外せない名作である。ロイヤルミントがワイオンの功績を紹介しているウェブページでも、1817年のスリーグレイセス試作クラウン銀貨や1839年のウナとライオン5ポンド金貨などと一緒に、このシリング銀貨もワイオンの代表作として紹介している。

 1枚1000万円以上のコインを投資対象にしている投資家からは、「そんな安いコイン買ってどうするの?」と思われてしまうかもしれない。ワイオンが手掛けた銀貨のコレクションを構築していきたい私としては、このコインはコレクションに欠かせない1枚だから購入したのだ。単体で安いコインを買ったというより、自分のコレクション全体の価値を高めるために数十万円を追加で投資した、という認識だ。

 最近、私が集めているのが、ゴチッククラウン銀貨とほぼ同じデザインが採用されたゴチックフローリン銀貨である。フローリンとは2シリングのことなので、2.5シリングに相当するハーフクラウン銀貨より一回り小さい。流通貨は発行数も多いので、特年であっても状態のいい裸コインが20万円以下で購入できる。裸の状態のまま長年扱われて劣化してきたので、鑑定に出してもMSが付く個体は意外に少ない。

 今でこそ高値で取引されているゴチッククラウン銀貨も、少し前までは状態のいい裸コインが20万円から30万円ほどで入手出来ていたことを考えると、稀少性の高い年号のゴチックフローリン銀貨は、何かのきっかけで価格帯が大きく変動することもあり得る。一枚一枚は低価格のコインかもしれないが、これもコレクション全体で考えると十分に投資対象になるとみている。

 コインの需要を決める4要素(希少性、グレード、発行国、デザイン)を念頭において探せば、投資に向いているにもかかわらず、もっと安いコインはいくらでも見つかるだろう。投資家なら、「価格が安いからダメ」という先入観で候補から外してしまい、有望なコインを見逃すようなことは避けたいものだ。

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