アンティークコイン投資の出口戦略をどうするか

可能ならずっと売らずに保有する

 アンティークコイン投資の書籍を読むと、「出口戦略を念頭において、売りやすいコインを買え」みたいなことが強調されている。たしかに正論ではあるが、私は「正しいコインさえ買っておけば、売るのに困ることはない」と思っているので、出口戦略についてはあまり重視していない。そもそも、いつになるかわからないほど遠い未来のことなので、その時にコインの人気トレンドがどうなっているかも想像がつかず、今悩んでも仕方ないのではないかと思うからだ。

 アンティークコインを買い集めている富裕層の中には、自分の世代では売る気が一切なく、子供や孫の世代に売却して利益を出すことを想定している人も少なくない。そういった相続目的の場合、財産を受け継いだ親族ができるだけ継続保有するように、コインという現物資産だけでなく「アンティークコイン投資の素晴らしさ」を継承できるかどうかがカギになる。本人が死去した直後に遺族によってオークションですべて売られてしまうケースも少なくないが。

 背伸びして富裕層の真似をするのは身の程知らずと叩かれそうだが、当面の間はコインを買い集めることだけに集中して、売ることは考えない方が気が楽だ。売りたがらない長期投資家が増えれば増えるほど、レアコインは品薄になって価格も上昇するだろうから、そうなれば投資的にも好ましい。

 とはいっても、アンティークコイン投資の目的として、3年から10年くらいの中期保有で売却益を出したい、という人も結構いるだろう。そのような人にとっては、出口戦略は当然気になるところだ。金額がそれなりに大きくなるレアコインであれば、オークションで売却するのが最も現実的だろう。今ではオークションハウスに電子メールなどで気軽に相談できる環境が整っているので、オークションへの出品は個人でも比較的簡単だ。

 売却手段としては、ディーラーも有力な選択肢になる。ディーラーに「委託販売」という形でしばらくコインを預け、ディーラーの顧客に提案することに加え、ウェブサイトに掲載して販売してもらう。売却できた時の委託手数料は10%から15%が一般的で、売却できなかった場合は、基本的に料金は発生しない。中には現物を預けることなく委託販売に応じてくれるディーラーもいるが、複数のディーラーに同時依頼する場合は、在庫管理に注意を払おう。

 オークションに出すにしても、現在の妥当な市場価格についてディーラーの意見を求めるといいだろう。レアコインを扱えば手数料収入になるので、自分のところで高く売る自信があるなら、「ウチで委託販売すればいくらくらいで売れますよ」と勧誘してくるはずだ。

 聞いた話ではあるが、日本のディーラーの中には、「ウチから買ったコインでないと売却はできない」と、他社で購入したコインの委託販売を断るところもあるそうだ。もし事実なら理解に苦しむ話だ。おそらく、基本的には委託販売はやっていないが、顧客サポートの一環で自社で購入したコインだけは委託販売に応じているという話だとは思うが。いずれにしても、お付き合いするディーラーは慎重に選ぶべきである。

オークションで売却する際の注意点

 オークションは、2人の入札者が競り合うとビックリするような高値で落札される可能性があるなど、コインを売却する手段としてはメリットが多い。その一方で、期待外れの安値で落札される可能性がある、出品から落札代金の入金までに3ヶ月から6ヶ月くらいの時間がかかるなどのデメリットもある。出品からオークション開催日までタイムラグがあり、コイン市場全体の地合いが急変しても出品者は何も対策が打てない。実際にいくらで落札されるのか、当日になってみないとわからない。オークションでの売却はギャンブル要素が多いと言える。

 2022年以降、円安が急速に進行したため、海外のオークションに出品する日本人コレクターが増えている。円相場が120円から約20%円安になって145円になったとすれば、ドルで取引されるオークションに出品すれば、ドルベースではトントンであったとしても、円ベースでは20%の利益になる。実際に、2022年後半から2023年にかけて、おそらく日本人コレクターが急激な円安を見て急いで出品したと思われるコインが増えたように感じる。

 コインのコレクターは、そのコインの発行国に一番多い。コインを高く売りたいなら、基本的にはコインの発行国で開催されるオークションが適している。しかし、現実的には富裕層コレクターが多いモナコ、スイス、日本などのオークションに出品した方が高値が付きやすいケースも多い。どの国のどのオークションに出品するかで落札値はかなり変わってくる可能性はあるので、オークション履歴を比較して、自分が売りたいコインが一番高く売れそうなオークションを調査してみるといい。

 海外のオークションに出品する際には、通関などややこしい手続きもあり、国内ディーラーが提供しているオークション出品代行サービスを利用するのが現実的かもしれない。個人のコレクターが自分で手続きすることも可能だが、消費税関係の申告を個人ですべてやるのは大変。特に、コインが不落札で返送されることを想定して、事前に再輸入手続きの手配もしておかないと、日本に返却される際に消費税が再度課せられてしまう。このあたりのことは私も経験がないので、必ず事前に専門家に確認してから進めて欲しい。

 海外オークションの落札代金は外貨で支払われる。落札代金の受け取り口座として、日本の銀行口座(円口座)を指定すると、自動的に日本円に換算されて口座に着金する。海外オークションで入札しているコレクターや投資家の中には、落札代金支払いのために外貨のままキープしておきたい、と希望する人もいるかもしれない。海外にマルチカレンシーの銀行口座を保有していれば、外貨のまま受け取って将来の支払いに充当できるかもしれないが、外国為替及び外国貿易法(外為法)に抵触しないかどうか、専門家に事前に確認しておいた方が安全だろう。

売りたい価格が決まっているなら「ワインセラー作戦」

 アンティークコインを投資目的で購入するなら、保有期間よりも値上がり幅で売り時を判断したいという人もいるだろう。たとえば、取得価格の2倍になったらいったん売却して利益を確定したい、みたいな感じに。そういう時には、「ワインセラー作戦」が応用できるかもしれない。ワインセラー作戦という名称は、私がたった今思いついた名称なので悪しからず。

 レアコインをメインに扱っているディーラーにとって、コインのマージン率をどうするかは非常に悩ましい問題かもしれない。希少度ランクの高いコインの場合、オークション履歴を調べれば、同一個体のデータを特定できることが多い。ディーラーの仕入値が簡単にわかってしまうのだ。私の印象では、ディーラーが直接オークションから仕入れる場合、BPや消費税をすべて含めた取得原価に、価格帯によって20%から50%を上乗せして販売することが多いようだ。

 そのマージン分をペイするには、コインが順調に値上がりしたとして3年から5年くらいはかかるだろう。購入後5年くらいは保有しないと利益は出ない計算になる。もっとも、それは賢いコレクターが適正価格で購入すると想定した場合だ。実際問題としては、オークション取得価格の2倍でも買う人がいるかもしれないので、20%から50%というマージン率は妥当な範囲と言える。

 購入価格の2倍で売りたい人は、コインを買ってすぐに2倍の価格をつけてディーラーに委託販売で預ければいい。普通に考えれば、いきなり2倍の価格をつけても数年間は売れないままだろうし、ディーラーから「そんな高値で売りに出すのはウチの理念に反する」と断られる可能性が高い。ならば、それをヤフオクで実行してみてはどうだろうか。現に、それを実行していると思われる人を見つけた。

 ヤフオクには、たまに目を疑うほどの素晴らしいコインが出品されることがある。ある日私は、希少度ランクも高く、人気も申し分ない特級の銀貨を発見した。しかし、付けられていた価格は、当時の相場と比較して明らかに高すぎる水準だった。「あれ、この銀貨の独特なトーン、つい最近見たことがあるぞ」。調べてみると、アメリカのオークションに数ヶ月前に出品されていたコインだとわかった。当時の為替レートで予想取得価格(落札値+BP+諸経費+輸入消費税)を計算すると、ヤフオクで付けられた価格は取得価格の約2.4倍。そりゃ高いと感じるはずだ。

 不思議なことに、あれから2年以上経過してみると、「言うほど高値でもないかも」という印象に変わってきている。2年間、ワインセラーで寝かせている間に、相場が順調に上昇したからだ。このコインの出品者が本当に売る気があるのかどうかはわからないが、価格をそのままにしてあと3年も寝かせておけば、いつの間にか売れてなくなってしまっていた、という可能性もある。

 その出品者の「出品中の商品」を見ると、レアコインがズラリ。ウォッチリストに入れて監視していたわけではないが、高値で出品したまま価格も変更せずに長期間放置しているようだ。ヤフオクは出品するだけなら費用は一切かからないので、保有するコインのショールームとしても活用できる。コレクションをみんなに見てもらいながら、将来この価格で売却したい、という目標価格を公開できる。ベタな作戦かもしれないが、検討してみる価値はある。

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