投資に有望なレアコインの条件とは

レアコインの希少度にはランクがある

 投資すべき「正しいコイン」の一つの型として、「みんなが欲しがる珍しいコイン」があると書いた。「珍しいコイン」は素人っぽいイメージなので、これからは「レアコイン」と表現することにしよう。レア(Rare)とは、「稀な」という意味であり、コイン業界ではよく使われる単語である。

 レアコインには希少度によってランクがある。そのランクを設定するのは、コインのカタログを発行する出版社だったり、オークションハウスだったりするが、コレクターや投資家はその希少度ランクを参考にしている。

 イギリスコインであれば、オークションハウスでもあるスピンクが発行しているカタログ(English Silver CoinageやEnglish Gold Coinage)に記載されている希少度ランクが引用されることが多い。銀貨専門のカタログであるEnglish Silver Coinage(ESC)では、希少度を「最もありふれている」を示すC3から、「現存数1枚もしくは2枚」を示すR7までの記号で示している。希少度は、C3→C2→C→N→S→Rという順に高くなっていく。

 CはCommon(ありふれた)、NはNormal(普通)、SはScarce(珍しい)、RはRare(稀な)という英語の頭文字である。コレクターの間では、R以上のランクが付けられたコインをレアコインと表現することが多い。Rから上は1刻みでR7まで設定されている。言うまでもなく、RよりR2が、R2よりR3が希少度が高く、その最高峰がR7になる。R7のような「現存数1枚もしくは2枚」のコインは、ユニーク(Unique、唯一な)と表現されることがある。

 ESCに掲載されている有名なイギリス銀貨の希少度をいくつか取り上げてみよう。イギリス銀貨と聞けば、まず誰もが思い浮かべるゴチッククラウン銀貨にはいくつかの種類がある。1847年に8000枚発行されたとされているが、実際の正確な発行枚数は不明である。1847年銘のゴチッククラウンは、アンデシモエッジとプレーンエッジに大別される。発行枚数の内訳も不明だが、プレーンエッジはアンデシモエッジの1/10程度ではないかと推測されている。これらとは別に、100セット程度発行されたプルーフセットに収められた1853年銘のゴチッククラウンが存在する。

 これら3種類のゴチッククラウンの希少度ランクを比べてみると、1847年アンデシモエッジは「S」、プレーンエッジは「R2」、1853年銘は「R3」となっている。アンデシモエッジのゴチッククラウンは8000枚近く発行されているので、希少度的には「S」ランクに留まっている。アンデシモエッジのゴチッククラウンは「Scarce=珍しい」コインではあるが、レアコインと表現するのは微妙なところだ。

 1839年に発行されたプルーフセットは、あのウナとライオン5ポンド金貨が収納されいたことで有名だが、このプルーフセットの発行枚数は400セット前後と推測されている。同じセットに収納されていたヴィクトリア女王の1839年プルーフクラウン銀貨の希少度は「R」となっている。ゴチッククラウンの発行枚数と比較すると、1839年クラウン銀貨が「R」評価になるのは納得できる。と同時に、「S」と「R」の間にはかなり高い壁があるように感じる。

 注意したいのは、希少度ランクはあくまでも希少度だけを評価したものであり、コインの市場価格や人気度は反映されていないことだ。希少度ランクがR4以上でも100万円以下で購入できるコインもあれば、前述のゴチッククラウン銀貨のように、希少度ランクはSなのにグレードが高ければ1000万円近くするコインもある。

発行枚数や推定現存数を調べる方法

 カタログに掲載されるすべてのコインに希少度ランクをつけるというのは、非常にチャレンジングな試みである。ランクは、カタログの編者であるベテランコレクターが長年収集したデータに基づいてつけられているが、時代の経過とともにランクも変更される。先ほどのESCは、現在第7版が発行されており、私はその前の第6版と第5版も持っているが、研究の進捗によって希少度ランクが変更されているコインも散見される。

 流通貨の場合、造幣局に正確な製造数の記録が残っているので、そのデータを参考にすることもできる。製造数のデータは、ESCでは巻末に掲載されているし、コインコレクター向けポータルサイト「Numista」などで簡単に参照できる。製造数のデータを見ると、何らかの事情で製造数が少なかった年がたまにある。そのような年号は「特年」と呼ばれる。英語ではKey Dateなどと表現される。年号をすべて揃えようとした時、関門になる年号という意味だ。

 アンティークコインの場合、戦争で貴金属が回収されるなどして、製造数が多い割りに現存数が少ないコインもある。希少性を判断するうえでは、製造数ではなく現存数の方が重要だ。正確な現存数を知る方法はないが、現存数を推測するのに役立つデータはいくつかある。

 その一つが、鑑定会社が鑑定済みのコインを集計した、俗にいう「ポピュレーションレポート」だ。NGCでは「Census(国勢調査)」と呼ばれている。鑑定されたコインのグレードと枚数が記録されているので、自分のコインのグレードが上位から何番目かという相対的な位置がわかる。それぞれのコインの総鑑定枚数を見ると、おおよその現存数が見えてくる。
 レア度の高いコインは、鑑定に出すことでより高く売れるようになるので、レア度が高いほど鑑定に出される割合は高くなると推測される。市場価格が高いにもかかわらず、鑑定された枚数が極めて少ないコインは、本当に現存数が少なく、カタログのレア度ランクよりもさらに希少性が高いと判断できるケースもある。現在進行形で鑑定枚数は増え続けているので、定期的にポピュレーションレポートをチェックしてみるといいだろう。

 コインの現存数を推定できるデータとしては、先ほど紹介した「Numista」のFrequencyがある。Frequencyとは、サイトに登録した会員が「このコイン持ってますよ」と回答できるアンケート結果のようなもの。

 Numistaでは、コインに描かれている肖像によってページが分けられている。一例をあげると、ヴィクトリア女王時代のハーフクラウン銀貨だと、1839年から1874年までの、いわゆる「ヤングヘッド」の前期で一つのページが構成されている。集計結果を見ると、1839年のプルーフ貨は3%、1841年の特年は2%、1853年のプルーフ貨は0.5%という具合だ。

 ページに掲載されるコイン(この例では1839年から1874年までのハーフクラウン銀貨)を1枚以上持っていると回答した人が母数になるので、集計結果が3%ということは、同じジャンルのコインを持っている100人のうち、このコインを持っている人は3人だけ、ということになる。あくまでもコレクターが自主的に回答したアンケートなので、統計としての正確性はそれほど高くないが、コインの現存数を推測するうえで参考になるだろう。

入手した人が売りたくないレアコイン

 希少度ランクが高いレアコインほど、現存数も少なく、入手するのが難しい。ただし、希少度ランクが高いからといって、投資に向いているとは限らない。どのような条件を満たしたレアコインを投資対象にするべきだろうか?この疑問については、私もアンティークコイン投資を始める前から、ずっと答えを追い求めてきた。まだ正解にたどり着いたわけではないが、おぼろげながら、いくつかの仮説が浮かび上がってきた。その一つが、「いったん手に入れた人が手放したくない」コインである。

 私も一応コレクターなので、コレクターの心理はある程度理解できる。限られた資金でコレクションを充実していくには、購入資金捻出のためにコレクションの一部を換金したり、交換に出したりすることもある。知らず知らずのうちに、「何があっても絶対手放さないモノ」と「換金・交換のためなら放出してもいいモノ」を明確に区別していたりするものだ。当然、コレクターが「絶対手放したくない」と思ってようなコインに投資すべきだ。

 今はコレクターや投資家でも簡単にオークションに出品できるようになったので、市場性のあるコインは定期的に世界中のオークションに出品されてぐるぐる循環している。比較的短いスパンでコインを回転させるディーラーや短期投資家も多く、同じ個体が毎年のように出品されることも珍しくない。ある時、長期保有目的、相続目的の投資家に落札されると、その個体はピッタリ、姿を見せなくなる。

 レアコインがオークションに出品された記録は、CoinArchivesのようなオークション履歴データベースで簡単に追跡できる。(CoinArchivesで半年以上前のデータを検索するには有料会員登録が必要)鑑定制度の素晴らしい点は、過去に落札されたコインと同一個体であるかどうかを識別できることだ。そのコインが、いついくらで落札されたのかという来歴を辿ることができる。

 あるコインが高値で落札されると、「じゃあ私の持っている同じ種類のコインを売りに出そうか」と考えるコレクターや投資家が増えるので、しばらくすると別の個体の出品が増える。別の個体が出品されるごとに高値で落札されたにもかかわらず、同じ個体がその後しばらく姿を現わさなかったとしたら、そのコインを落札した人は長期保有を決め込んで、ずっと握りしめているということなる。

 2021年から2022年にかけて、コイン市場は空前の活況を呈した。リスク資産の逃避先として多くの資金が流入するとともに、コロナ禍の影響で本業がダメージを受け、泣く泣く秘蔵のコレクションを売りに出した人も少なくなかっただろう。実際、数年に一度しか売りに出ないような逸品が数多くオークションに出品された。その多くはビックリするような高値で取引され、高値掴みではないかとも思われたが、ひょっとしたら、「本当は売りたくなかったコイン」を入手できる絶好のチャンスだったのかもしれない。

 オークションだけでなく、投資用の高額レアコインを扱っているディーラーの在庫状況を定点観測するのも有効だ。いいコインは真っ先に売れてしまい、在庫リストからは消えてしまうので、「これまで一度も在庫リストに載ったことがないコイン」や、「在庫リストに載った直後に消えた(売れてしまった)コイン」を観察すると、投資に向いたレアコインのヒントがつかめるだろう。

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