オークションなら「適正価格」で購入できるのか

アンティークコイン業界におけるオークションの役割

 オークションというプラットフォームは、買い手と売り手をマッチングして、約定した金額の一定割合を手数料として徴収するビジネスモデルである。出品物ができるだけ高く売れれば受け取る手数料が増えるので、オークションハウスは入札参加者の集客に注力する。アンティークコインの流動性を高め、取引される金額を透明化する役割を果たし、アンティークコイン業界にはなくてはならない存在である。

 その一方で、オークションを利用するためのコストは決して安くない。最近では、買い手(落札者)と売り手(出品者)の両方に手数料を課すのが一般的になっていて、特に買い手に課せられるバイヤーズプレミアム(BP)は平均すると20%程度に高騰している。あるコインを100万円で落札すると、実際にオークションハウスから請求されるのは120万円プラス送料になる。海外のオークションであれば、輸入時に支払い総額に対して10%の消費税が徴収される。

 これだけ高額の手数料が加算されるにもかかわらず、近年はどこのオークションハウスも世界中から入札が集まり活況を呈している。高い手数料を払ってでもオークションで落札するメリットが大きいと考えるコレクターやディーラーが多い証拠だ。

 オークションは、自分が支払っていいと決めた金額で入札する仕組み。運よく落札できたなら、納得できる予算内で購入できたことになる。入札する金額をどう決めるかは難しい問題ではあるが、いずれにしても、支払う上限を自分で決められる点が人気の理由だろう。

 少し前までは、「コインを最も有利に購入できる場所」として認識されていたオークションであるが、コロナ禍を契機にオークションにライブ入札するコレクターが急増したため、オークションで人気コインを予算内で落札する難易度が一気に上がってしまった。

オークションなら「適正価格」で購入できるのか?

 オークションの落札価格が「相場」として扱われているのであれば、狙っていたコインをオークションで落札することができれば、自動的に「正しいコインを適正価格で買えた」ことになるのではないか。その考え方は基本的には正しい。しかし最近では、オークションはコレクターとディーラーがコインを奪い合う鉄火場になってしまったので注意が必要だ。

 オークションの落札価格は、誰が競り落としたかによって意味合いが違ってくる。ディーラーは、自分のマージンを上乗せしてもコレクターに販売できると判断した水準からは決して深追いしない。ディーラーとの競り合いで勝てたら、ほぼ彼らの「仕入値」と同じ水準で購入できたことになる。日本で開催されるオークションであれば、オークション会場に出向いてフロア入札に参加してみるのもいいだろう。何回か参加すると、毎回参加しているディーラーの顔はすぐに覚えられるし、ディーラーがどのコインをいくらまで追いかけているかを観察すれば、コインの「業者間取引価格」が勉強できる。

 インターネットのライブ入札にように競合相手が誰かわからないなら、競合相手はたまたまそのコインがどうしても欲しい富裕層コレクターなのかもしれない。だとすると、適正価格を大きく超える価格まで吊り上げられてしまう可能性がある。そのような争いに巻き込まれてしまっては、適正価格で買うどころではない。予算を厳格に決めておかないと、適正価格の数倍で買ってしまうことになりかねない。

 オークションは、運が良ければ狙っていたコインを適正価格で落札できるチャンスがあるが、私の経験では、予算の上限を超えて途中で泣く泣く降りることの方がはるかに多い。「このコインがオークションに登場するのは3年振りだ」と意気込んで入札に参加したものの、上限オーバーで早々に降りないといけなくなった時の喪失感は思った以上にデカい。次のチャンスは3年後か、はたまた5年後か。資金の豊富な富裕層は、次にいつ来るかもわからないチャンスを待つなんてことはせずに、どんなに高くなっても強引に落札するんだろうな、と思うと自分の資金力のなさが恨めしい。

 それでも、アンティークコイン投資家にとって、オークションの攻略は欠かせないスキルと言える。特に、海外オークションを自在に活用できるようになれば、正しいコインを適正価格で買えるチャンスは大きく広がる。

オークションで買うか、ディーラーから買うか

 アンティークコインをオークションで買うのと、ディーラーから買うのでは、どちらが有利だろうか。オークションで落札すると、BPなど購入時の手数料が高いことを嫌う人もいるかもしれない。海外オークションだと、海外送金や輸入の通関手続きなど、煩わしい作業も発生する。

 ディーラーから購入すればBPのような手数料は加算されないから、価格的にはディーラーから購入する方が有利だと思っている人もいるだろう。しかし、ディーラーもレアコインの仕入れはオークションにかなり頼っている面もあるので、必ずしも価格的に有利とは言えない。個人的な印象では、ディーラーがオークションで仕入れる場合、取得原価(落札価格+BP+消費税などの諸手数料)に20%から50%くらいのマージンを上乗せして販売することが多いようだ。

 ディーラーから購入する最大のメリットは、プロの査定で価格が付けられていることだろう。ディーラーから購入するなら、コインがオークションで仕入れたものか、コレクターから買い取ったものかに関係なく、ディーラーが妥当な小売値と判断した価格が付けられているので、極端な高値掴みをする心配がない。

 このことは、「卸値」と「小売値」に置き換えて考えれば理解しやすいだろう。ディーラーが、仕入れ目的でオークションで落札した場合、その取得原価は「卸値」、マージンを乗せて販売する価格は「小売値」ということになる。オークションは卸値で落札できるチャンスがある一方、金に糸目をつけない富裕層コレクターと競り合ったら小売値の何倍もの高値で掴んでしまうリスクがある。卸値に近い適正価格帯で落札する自信があればオークションに参戦すればいいし、その自信がないならディーラーから小売値で買うのが安心ということだ。

 私はコインを買う場所には全然こだわりがない。利用するオークションもその都度変わるし、ここをよく使うという贔屓のディーラーも決まっていない。あくまで、探しているコインを売ってくれるところで買うだけだ。欲しいコインが手に入るなら、eBayやヤフオクであっても気にしない。

 豊富な資金があるなら、特定のディーラーの常連になるという手が使える。ディーラーと仲良くなると、入荷品をいち早く教えてくれるなど、様々な特別扱いをしてもらえるようになる。なかなかオークションに登場しないレアコインを独自のネットワークで探してくれる。過去にコインを販売したコレクターとの関係を保っていることも大きな魅力だ。

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