【コレクション】1867年 ヴィクトリア女王 パターンフローリン銀貨



発行年・王朝 1867年ヴィクトリア女王
種類(エッジ) パターンフローリン銀貨(プレーン)
グレード NGC PF66
希少度ランク R5(現存数5~10枚)
入手方法 海外ディーラーから購入

「ゴチックフローリン」の希少なパターン(試作貨)

 フローリンとは、ヴィクトリア女王時代に新しく導入された2シリングに相当する通貨単位のこと。1851年から1887年にかけて発行されたフローリン銀貨は、1847年銘ゴチッククラウン銀貨同様に、銘文にブラックレター(ゴチック文字)が使用されているため、コレクターの間では「ゴチックフローリン」という愛称が定着している。裏面のデザインは、ゴチッククラウン銀貨と同様に、ウィリアム・ダイスが担当した。

 ゴチックフローリンは、長期間発行されたこともあり、いわゆる「手変わり」品が多く、コレクターにとっては集めがいのあるシリーズになっている。流通貨として発行枚数が多いため、全体的に価格帯は低くなるので、投資対象にするなら、ごくわずかしか発行されていないプルーフ貨や、いわゆる「特年」でグレードの高いものなどに絞り込む方がいいかもしれない。

 ESCに掲載されているプルーフ貨は、発行された37年間のうち20の年号にのぼっている。中には鑑定枚数がほとんど記録されていない年号もあり、今でいうPLが過去にプルーフと鑑定されたため、カタログにもプルーフが存在すると認定されたケースも含まれるかもしれない。ゴチックフローリン銀貨のプルーフ貨の中で、発行目的が明確なものが2つだけある。

 一つは1853年銘のプルーフ貨。これは、1853年銘ゴチッククラウン銀貨などと一緒に1853年プルーフセットに収めるために作られた。1853年プルーフセットは、推定で80~100セット発行されたと思われ、1853年銘プルーフゴチックフローリン銀貨は、合計18枚(NGCが13枚、PCGSが5枚)鑑定されている。ゴチックフローリン銀貨のプルーフ貨の中では、明らかに一番希少性が低い年号であり、たまに市場でも見かける。

 発行目的が明確なもう一つの年号は、この1867年銘パターンフローリン銀貨である。ゴチックフローリン銀貨の中で、唯一の「パターン」でもある。ESCでは、他の年号のプルーフ貨は、単に「Proof」とだけ記載しているが、1867年だけは「Proof or pattern」と明らかに区別されている。

 なぜパターンなのかといえば、1867年銘の流通貨と明らかにデザインが異なるから。具体的には、1867年まで表面の銘文の前半は「Victoria d:g:brit:」と最後のtが一つだったのに対して、パターンでは「Victoria d:g:britt:」とtが2つになっている。そして、1868年銘の流通貨からはtが2つのデザインに変更された。つまり、このパターンは、翌年の流通貨から表面デザインの一部変更を行うための試作品だったということになる。

1867年パターン

1867年流通貨

 1867年銘の流通貨は発行枚数が極端に少なく、流通貨でありながら希少度ランクは「R2」になっている。1867年は流通貨の製造を途中で止めて、表面のデザイン切り替えの準備に入ったと推測できる。

 この1867年銘パターンフローリン銀貨は、2017年1月のヘリテージオークションで開催された「D. Mooreコレクション」で初めて市場に出てきたものとされる。スラブのラベルにも、ペディグリーとして「D. Moore Collection」と記載されている。D. Mooreコレクションは、国を限定せず、とにかく最高グレードの奇麗なコインだけを収集対象にしたコレクションとして知られる。事実、このパターンフローリン銀貨のPF66というグレードはダントツのシングルファイネストで、NGCでもPCGSでも、次のグレードは64まで落ちる。

 希少度ランクはR5(現存数5~10枚)となっているが、これはやや過大評価だろう。鑑定数は合計8枚(NGCが3枚、PCGSが5枚)なので、R4(現存数11~20枚)が妥当のような気がする。

 ページの上部に掲載されているスラブ入りの写真を見ると、なかなかこのパターンフローリン銀貨の美しさが伝わらないかもしれない。正面から撮影した映像はくすんで見えるが、斜めから光を当てると素晴らしいカラートーンが目を楽しませてくれる。オークションカタログでは、このコインの美しさは「光の中で傾けると、フィールドはまばゆい金色、まだらの鋼鉄のような青色、深紅の槍で生き生きと輝き、そのすべての色が本来の未使用銀貨の輝きに彩りを添える」と表現されている。

 前述のように、ゴチックフローリンには、プルーフ貨が存在する年号は意外に多い。しかしながら、プルーフセットに収められた1853年銘以外はほとんど市場に出てこない。2022年3月に、海外のオークションに1879年銘のプルーフフローリン銀貨が出品されたが、裸だったので落札を見送った。鑑定に出すと、Detailsになる可能性はもちろん、MSのPL(プルーフライク)と評価される可能性があり、裸の状態で落札するのはリスクが高いと判断したからだ。余談だが、2023年5月に東京で開催されたTICCで、ディーラーが1879年銘のプルーフフローリン銀貨を裸で販売していたが、おそらくその時に落札されたものだろう。

 機会があれば追求したい謎がある。通常、プルーフ貨の発行枚数は不明なことが多い。ゴチックフローリン銀貨のプルーフ貨についても、この1867年銘パターンを含めて、発行枚数はわかっていない。しかし、1851年銘のプルーフフローリン銀貨だけは、コレクター向けのポータルサイトNumistaやESCの巻末に、発行枚数1540枚と掲載されている。この1540枚というのはプルーフ貨の発行枚数と思われるが、1851年銘のプルーフフローリン銀貨の鑑定数は4枚(NGCが2枚、PCGSが2枚)のみである。(流通貨の鑑定数は0枚)この1540枚というデータはどこから出てきたのだろうか。

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