「第二の脳」の正体は、パソコンの中にあるフォルダです
「第二の脳」と聞くと、クラウド上の特殊なシステムを想像されるかもしれません。しかし実態はもっとシンプルです。
「第二の脳」の本体は、お手持ちのパソコンの中に保存されたテキストファイルの集合体です。特別なサーバーも、高価な業務システムも必要ありません。
このテキストファイルを管理するために使うのが、「Obsidian(オブシディアン)」という無料のメモアプリです。Obsidianは、メモ同士を自由にリンクでつなげることができるのが特徴で、蓄積した知見が孤立せずに、関連する情報同士が有機的に結びついていきます。
そして重要な点は、「第二の脳」の中身はすべて自分のパソコン内にファイルとして残るということです。クラウドに預けるのではなく、手元に実物がある。だからこそ、経営に関する機密情報を扱っても漏洩のリスクは低く抑えられます。さらに、事業承継の際には、このフォルダをそのまま後継者に手渡すことができるのです。
ブラウザのAIチャットと「育つAI」の違い
多くの方がAIを使うとき、ブラウザ(インターネット閲覧ソフト)を開いて、ChatGPTやClaudeなどのAIチャットに話しかけるのではないでしょうか。
このブラウザ型のAIチャットは、一回ごとの会話を「使い切り」にする仕組みです。質問すれば答えてくれますが、会話が終われば内容はリセットされます。前回何を話したか、あなたの会社がどんな事業をしているか、AIは覚えていません。
「第二の脳」の構築に使うのは、これとは異なる「Claude Code(クロードコード)」というツールです。Claude Codeは、ブラウザではなくパソコン上で直接動作します。そして、先ほどご紹介したObsidianの中にあるファイルを読み書きする能力を持っています。
つまり、Claude Codeは「第二の脳」の中身を直接参照し、新しい知見を書き加え、既存の情報を整理し直すことができるのです。会話が終わっても、蓄積された知見はObsidianのファイルとして残り続けます。次の対話では、前回までの蓄積を踏まえたうえで応答してくれる。これが「育つAI」の仕組みです。
ブラウザ型のAIチャット(claude.ai)が「そのとき限りの相談相手」だとすれば、Claude Codeは「御社のことを日々学び続ける、机の隣の助手」と言えるでしょう。
「教える」とは、具体的に何をするのか
「AIに暗黙知を教える」と言うと、難しい操作が必要に聞こえるかもしれません。しかし、実際にやることは大きく分けて二つだけです。
一つ目は、既存の文書の取り込みです。社内にすでにある報告書、議事録、マニュアル、メールのやり取りなど、ベテランの考え方が反映された文書をClaude Codeに読み込ませます。Claude Codeはその内容を分析し、テーマごとに分類し、関連する知見同士をリンクでつなぎながら、Obsidian上にWiki(社内百科事典のようなもの)として自動的に構築していきます。
二つ目は、AIとの対話です。Claudeに話しかけ、自分の判断基準や考え方を言葉にしていきます。AIが次々に問いかけてくれるので、一人で考え込む必要はありません。AIは対話を通してあなたの思考パターンを解析して、Claude CodeがObsidianのファイルとして整理・保存します。この積み重ねを経て、「第二の脳」はあなたの「思考の写し身」に成長していきます。
こうして蓄積された知見は、バラバラのメモの山にはなりません。テーマごとに整理され、関連情報が相互にリンクされた、検索も参照もできるナレッジベースとして育っていきます。新しい知見が加わるたびに、既存の情報との関係が自動的に更新され、「第二の脳」は有機的に成長し続けます。
なぜ、この組み合わせを選んだのか
「第二の脳」を構築するためのツールの組み合わせは、一つではありません。書籍でも触れていますが、道具の選択は本質ではなく、大切なのは暗黙知をナレッジ化するという目的そのものです。
そのうえで、筆者がClaude CodeとObsidianの組み合わせを選んだ理由は、主に二つあります。
第一に、データの安全性と可搬性です。Obsidianはすべてのデータをパソコン内のローカルフォルダに保存します。「第二の脳」には経営判断の根幹に関わる機密情報が含まれますから、外部のサーバーに預けないという選択は重要です。また、ファイルの形式は汎用的なテキスト(マークダウン)ですから、将来もし別のツールに乗り換えたくなっても、データはそのまま移行できます。事業承継の際にはフォルダごと手渡せるという実用性も、この組み合わせの大きな利点です。
第二に、Claudeの日本語能力とコストのバランスです。Claude Codeの司令塔となるAI「Claude」は、日本語の読解力と表現力に定評があります。暗黙知の言語化は日本語の微妙なニュアンスを扱う作業ですから、この点は極めて重要です。そしてClaude Codeは、Claudeの月額サブスクリプション(Proプラン)に追加料金なしで含まれています。月額の費用負担が抑えられることは、中小企業にとって現実的な導入条件です。
導入しているツールと費用
参考として、筆者が実際に導入しているツール構成と、それぞれの費用をご紹介します。
| 項目 | 役割 | 費用 |
|---|---|---|
| ノートパソコン | 作業環境(AI用の特別な性能は不要) | 手持ちの流用で可 |
| Claude Pro | AIサービスの契約プラン | 月額20ドル(約3,000円) |
| Claude Code | 「育つAI」の本体 | Proプランに含まれる(追加なし) |
| Obsidian | ナレッジの保管庫(メモアプリ) | 無料(個人利用) |
| claude-obsidian | AIと保管庫の連携プラグイン | 無料 |
| Gemini Pro | 画像作成・セカンドオピニオン | 月額20ドル(約3,000円) |
| Aqua Voice Pro | AI音声入力(話すだけでテキスト化) | 月額10ドル(約1,500円) |
| 合計 | 月額 約7,500円 |
中核となるのはClaude Pro、Claude Code、Obsidian、claude-obsidianの4つで、この組み合わせだけなら月額約3,000円で始められます。Gemini ProとAqua Voice Proは、作業の幅を広げるための補助的なツールです。
なお、料金と仕様は執筆時点のものです。また、組織全体で本格的に運用する段階では、Claudeの上位プランやAPI契約が必要になる場合があります。導入の規模や用途に応じた構成は、個別にご相談ください。
特別な技術スキルは不要です
ここまでの説明で、いくつかの聞き慣れないツール名が出てきました。不安に感じられた方もいるかもしれません。
しかし、筆者自身はエンジニアではありません。プログラミングの経験もなく、これらのツールをすべて独学で導入しました。Claude Codeは日本語での指示で動きますし、Obsidianの操作も基本的なパソコン操作ができれば十分です。
「経営ナレッジの資産化」に必要なのは、技術スキルではなく、「自分の暗黙知を言葉にしてみよう」という意思です。技術的なセットアップや初期設定は、コンサルティングの中でサポートいたします。
ご関心をお持ちの方へ
「経営ナレッジの資産化」の考え方をさらに深く知りたい方は、書籍をご覧ください。ツール選定の考え方から始まり、著者が実際に導入しているツールの詳細、さらに著者がこれまで実践してきた「第二の脳」育成の具体的方法が詳しく書かれています。