アンティークコインの定義
最近、「アンティークコイン」という言葉を耳にする機会が増えている。「製造から100年以上経過したコイン」と説明するディーラーが多いが、定義はディーラーによってまちまちで、「クラシックコイン」と表現するディーラーもいる。まあ、「歴史的に価値のある古いコイン」とくらいに思っておけばいい。
店頭などの支払い手段として額面通りに通用する通貨を「法定通貨」あるいは「現行通貨」と表現する。代金の支払い手段として使えない古い硬貨のことは、日本では一般的に「古銭」と呼ばれるが、古銭=アンティークコインと認識してもいいのではないかと思う。
むしろ、コインの定義の方が難しいかもしれない。「代金決済のために広く流通している硬貨」をコインと定義するのであれば、近年コレクター向けに発行された記念金貨や贈呈用のプルーフ貨、試作貨(パターン)などは、代金決済のために使われることは基本的にあり得ないので、コインに含めるかどうかは意見がわかれるところかもしれない。
ここでは、モダンコインと呼ばれる近年発行された収集家向けの金銀貨や、古代ローマで発行された金銀貨などの古代コインもすべて投資対象に含めている。その一方で、純粋に素材の価値だけで取引される地金型金貨(メイプルリーフ金貨など)は対象に含めていない。
最近の傾向としては、古い記念メダルもアンティークコインに似た性質を持っていることから、収集するコレクターが増えている。たとえば、イギリスのロイヤルミント(王立造幣局)が新国王の戴冠式を記念して発行したメダルなどは、アンティークコインのコレクターからも根強いニーズがある。ただし、古いメダルではあっても、民間企業が独自に企画・発行したものは、投資対象には向かないこともあるので注意が必要である。
アンティークコイン投資の魅力
アンティークコイン投資とは、一言で表現するなら、アンティークコインを購入して値上がりするまで保有する投資手法である。投資に適したコインを適正価格で購入できれば、あとはじっと保有するだけ。美術品や骨董品への投資に似ている。
アンティークコイン収集は最古の趣味とも言われ、古くは初代ローマ皇帝アウグストゥスが熱心なコインコレクターだった。切手収集は「趣味の王様」とも称されるが、イギリスで世界最初の切手が発行されたのは1840年、わずか200年ほど前のことである。2000年以上前にすでに熱心なコレクターが存在していたコイン収集は、文字通り桁違いの歴史を有している。コイン収集という趣味は廃れることなく現代まで受け継がれており、希少性の高いコインにはコレクターからの大きな実需がある。
資産価値の高い収集品はコレクタブル資産と呼ばれる。コインや切手以外にも、クラシックカー、腕時計、美術品、骨董品、ウィスキー、ワインなどがコレクタブル資産に分類されるが、コレクタブル資産の強みは、純粋に保有したい・集めたいという「コレクター」と、コレクターに高く転売して儲けたい「投資家」の両方が「買い手」になることで価格が安定的に上昇しやすいこと。誰もが欲しがるレア物は、富裕層が金に糸目を付けずに手に入れようとするので、コレクタブル資産の中には、希少性だけでは説明できないほどの高値が付くものも珍しくない。
アンティークコイン投資が近年注目されている要因として、1980年代にアメリカで誕生した第三者期間による鑑定制度が世界的に普及しつつあることがあげられる。鑑定を受けたコインは、本物であることが保証されることに加えて、コインの状態を示す「グレード」が数字で可視化されるようになった。コインの専門知識がない人でもコインの適正価格帯を判断できるようになり、一気に投資家の資金がアンティークコイン市場に流れ込むきっかけとなった。
アンティークコイン投資で先行しているのはアメリカやイギリスなどの欧米諸国であり、アンティークコイン投資に関する情報の大半が英語を中心とした外国語で発信されているため、日本ではアンティークコイン投資の認知度はまだまだ低い。今後、日本でもアンティークコイン投資に興味を持つ人が増えると予想されるので、今からアンティークコインに関する知識を学んでいけば、先行者利益が得られることも十分に期待できる。
当ブログはイギリスのアンティークコインに絞る
アンティークコイン投資は、コインディーラーから何かコインを買うだけで誰でもすぐに始められる。しかしながら、アンティークコインの種類は膨大で、コインに関する知識や投資のための戦略が必要になるので、残念ながら初心者が簡単に儲けられる甘い世界ではない。
アンティークコイン投資を始めるにあたって、まず初心者が困惑するのは、膨大な種類の中でどのコインを買えばいいのか、まったく見当がつかないことだろう。アンティークコインは、すべての国、年代を合わせると一説では20万種類以上あると言われている。まずコインに関する基礎知識を習得して、どんなアンティークコインが存在するのかを俯瞰できるようにならないといけない。その上で、投資対象とするコインのジャンル、いわば自分が戦うフィールドをきちんと絞り込むことが重要だ。
切手でもコインでも、特にジャンルを決めずに手あたり次第集める「ゼネラル」という収集方法もある。ゼネラル収集を否定する気はさらさらないが、趣味で集めるのならともかく、投資を強く意識するなら投資に適したコインに限定すべきである。
どのジャンルで勝負するかは人それぞれだが、私は有名な彫刻師ウィリアム・ワイオンが手掛けたイギリスの銀貨を投資対象にすることに決めた。具体的には、1824年から1887年にかけて発行された銀貨ということになる。どういう経緯で私はそう決めたのかについては、本編で詳しく語っていきたい。
このブログは、一人のアンティークコイン投資家兼コレクターの体験記である。これからアンティークコイン投資を始めたいと思っている人に対して、私と同じジャンルで戦うことを推奨しているわけではない。どのフィールドで戦うのかは、100人いれば100通りの考え方があって当然だ。私の体験や考え方を、あなた自身が戦うフィールドを決めるヒントにして欲しい。