サイトアイコン 「目指せ!投資初段」アンティークコイン編

なぜアンティークコインは値上がりするのか

アンティークコインは本当に値上がりしているのか

 アンティークコイン投資を推奨しているディーラーやコンサルタントは、口を揃えて「アンティークコインは安定して値上がりしている」と説明している。その根拠としてよく使われるのが、イギリスのスタンレーギボンズが公表している「GB200レアコイン指数200」のグラフだ。「公表していた」と表記した方が正しいかもしれない。切手のカタログを発行していることで知られ、切手コレクターの間では権威のあるギボンズであるが、過去にレアコインやレア切手を買い戻し保証付きで高値販売したことが裏目に出て経営危機に陥り、GB200レアコイン指数200も2015年で更新が止まってしまっている。

 ちなみに、GB200レアコイン指数200は、イギリスのレアコイン200種のオークション落札価格をもとに指数化して、1995年からの変動率を示したものである。アメリカで第三者鑑定制度が登場したことをきっかけに発生したバブルが崩壊したのが1989年、その後低迷を続けていたコイン相場がインターネットの普及によってようやく回復しだしたのが1995年だった。つまり、1995年は暴落後の大底水準だったわけで、1995年から2015年まで奇麗な右肩上がりで上昇を続けたというのは事実ではあるが、いいとこだけを切り取った感は否めない。

 アンティークコインの値動きを指数化したものは、ナイトフランククーツなどいくつかあるが、レアコインのオークション落札価格を指数算定の基準にしている点は共通している。しかも、指数に使われるのは、オークションカタログの表紙にも使われるような、高額で取引される超レアコインのことが多い。2007年から2008年に発生したリーマンショックでもアンティークコインはびくともせず、むしろ値上がりを続けたというのが殺し文句みたいに使われているが、コインオークションの仕組みや実態を知っていれば、特に驚くに値しない。

 アンティークコインは適正価格がわかりにくいので、誰もが認識できる「相場」というものは存在しない。同じ種類、同じグレードのコインが、あるところでは300万円、また別のところでは400万円で取引が成立していたりする。あり得ない高値で売りに出している変なディーラーもいるので、自分が300万円で買ったコインと同じものが500万円で売りに出されているのを見て、「200万円も値上がりした」とぬか喜びすることもあるかもしれない。

 アンティークコインは、10年20年というスパンで見れば、価格が上昇するケースが多い。現物資産はモノだから、インフレ率の上昇が後押ししてくれるという面もある。しかし、すべてのコインが値上がりするわけではない。10年前、20年前と比べて、ほとんど価格が変化していないコインも少なくない。だからこそ、値上がりしやすい人気のあるレアコインに絞って投資することが重要になる。

アンティークコインが値上がりするカラクリ

 アンティークコインは、古くは初代ローマ皇帝アウグストゥスの頃から収集品として売買されてきた。近代になってからは、資産として投資の対象にもなってきたが、アンティークコインが現物資産としての地位を確立できたのは、1980年代半ばにアメリカで第三者鑑定機関が登場してからである。多種多様なコインを統一された鑑定基準でグレードが付けられて「相場」が形成されるようになったことで、コインの専門知識がない投資家でも投資対象にできる環境が整った。

 鑑定制度は、当初はアメリカコインを対象にしたサービスだったが、それが徐々に世界中のコインにも適用されることになり、コインの相場を押し上げた。前述のレアコイン指数が1995年を起点に30年近く上昇トレンドを形成できたことには、鑑定制度が大きく貢献したことは間違いない。グレード別の鑑定数が可視化され、レアコインの希少性も統計で共有されるようになったことから、現存数の少ないレアコインほど値上がり率も高くなる傾向が定着した。

 アンティークコイン市場は、株式市場などに比べると市場規模が極端に小さい。いわば、浮動株の少ない新興小型株のようなものなので、現存数の少ないレアコインが相続などの超長期保有目的で富裕層に退蔵されてしまうと、一気に品薄、すなわち供給不足になってしまう。そのようなコインがたまにオークションに出品されると、前回買い逃して悔しい思いをしたコレクターや投資家が入札に殺到するので、オークションでは常に高値を取引されるようになる。

 すでにお気づきの人も多いだろうが、アンティークコインの値上がりを強力に支援するブースターの役割を果たしているのがオークションというプラットフォームである。日本でも、かなり前からヤフオク!などのフリマ型オークションサイトが存在していたので、オークションの基本的な仕組み自体はすでに広く知られている。個人でも簡単に参加できるネットオークションでは、通常は出品者だけの落札手数料が課せられる。しかし、コイン専門のオークションの場合、出品者だけでなく、落札者にも手数料(バイヤーズプレミアム)が課せられ、しかもその率は平均20%(さらに上昇する傾向がある)と出品者に課せられる落札手数料(平均10%)よりも高い。

 あるコインがオークションにおいて100万円で落札されたとしよう。出品者は落札手数料(10%)が差し引かれた90万円を受け取り、落札者はバイヤーズプレミアムが加算された120万円+付加価値税(日本なら10%の消費税)を支払う。差額の30万円はオークションハウスの取り分となる。その手数料以上に値上がりしないとペイできないから、しばらくの間は保有する覚悟で落札することになる。

 要するに、それだけ高額の手数料を払っても買いたいという人が絶えない、典型的な「売り手市場」ということだ。オークションハウスは在庫リスクを持たずに右から左に流して30%近い利益を取っている。それでも取引が活発に成立しているのがコイン市場の魅力ともいえる。

 コインが高値で落札されれば受け取る手数料も増えるオークションハウスにとって、ウチは毎回落札額が高値更新を続けているという実績を示すことが最高のマーケティングになる。そこで、高値で落札されそうなコインを揃えるために、レアコインには落札手数料を優遇したり、以前自社からレアコインを購入した客に個別に出品を依頼したりする。今の市況を判断して高値が付きにくいと判断したコインは、出品者にしばらく保有することを提案、あるいはオークションには出さずに特定の顧客に相対取引を打診することもある。「期待よりかなり低く落札された」というガッカリ事例をできるだけ作らないためである。

オークションやディーラーが果たす役割

 オークションは、アンティークコイン市場においてコインの流動性を高め、コインの値上がりを支援するなど多大な貢献をしている。しかし、オークションにも弱点はある。出品からオークションの実施、落札代金の精算までに時間がかかるという点だ。通常サイクルだと、平均半年はかかるのではないだろうか。リーマンショックのような金融市場の暴落が急に発生しても、コインをオークションというプラットフォームを使ってすぐに換金することはできない。

 これは私の想像であるが、リーマンショックの時に、目先の資金繰りに困った人たちがオークションハウスに泣きつき、オークションハウスの顧客に安値で買い取ってもらったケースは結構あったのではないかと思う。これらの「換金売り」は相対取引なので、オークション履歴などの統計には反映されることはない。リーマンショックにびくともしなかった超富裕層が、定期開催のオークションではレアコインをいつも通り高値で落札したため、レアコイン指数はリーマンショックが起きた時も上昇を続けたことになっているのだ。

 オークションハウス同様に、アンティークコイン業界の発展に寄与しているのがディーラーの存在だ。ディーラーは、コレクターやオークションなどからコインを仕入れて販売することで、コインの流動性を高めてくれている。時には、特定のコインを世界市場で買い集め、コイン相場上昇のきっかけにもなっている。美術品業界における画廊のような、マーケットメイカー的な存在だ。

 日本コインディーラーのマーケットメイクには定評があり、古くは1980年代のバブル期におけるウナとライオンを始め、俗にいう「ヤングエリザベス」と呼ばれる1980年代のイギリス5ポンド金貨や、最近ではゴチッククラウン銀貨などの人気コイン高騰の立役者とも言われる。一部では、日本コインディーラーによる価格吊り上げという批判もあるが、私はマーケットメイクをしてくれるなら歓迎すべきことだと思っている。

 日本ではまだまだアンティークコインの認知度は低く、アンティークコインを「資産」として投資対象にしているのは、ある程度の金融資産を運用している人の中でも、おそらく1000人に1人程度ではないだろうか。それほど低い認知度にもかかわらず、ウナとライオンやゴチッククラウンのように、日本のコレクターや投資家の動向が世界の市場価格を大きく動かすほどの影響を与えている。仮に日本の富裕層と呼ばれている人たちが、資産の数%をアンティークコインにシフトするだけで、有名なアンティークコインの大半を飲み込んでしまうのではないか、と錯覚しそうになるほどニッチなマーケットなのである。

 コインの人気は、ディーラーのプロデュースで作られる面が大きい。コインディーラーが市場を活性化してくれれば、日本のアンティークコイン市場はこれから爆発的に拡大する可能性を秘めている。コロナ禍の2021年には、日本でモダンコインの大きなブームが発生した。その時は、ちゃんとした投資家よりも、いわゆる転売ヤーが大挙参入してきて彼らの仮需で価格が一気に吊り上げられたこともあり、ブームは短期間で萎んでしまった。これからはコインディーラーとコレクター、投資家が良好な関係を築きながら、アンティークコインが健全に値上がりしていくような環境を育てていければ理想的だ。

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