あらゆる投資に共通する必要スキル
投資というものは、損するかもしれないという恐怖心を克服する自分自身との戦いである。私はアンティークコイン投資以外では、株式投資くらいしかまともな経験はないが、それでも投資で勝つにはどんなスキルが必要なのか、だいたい理解しているつもりだ。
どんな投資であっても、事前にその業界や対象になる投資商品の基礎知識を習得することが大前提である。投資対象になる商品の価格が、どんな要因で変動するのかという仕組みも理解せずに資金を投じるのは自殺行為でしかない。
そのうえで、まず認識すべきなのは、自己責任を肝に銘じること。株式投資で例をあげるなら、投資する銘柄を自分で決め、その結果、仮に予測不能の不祥事や業績悪化で株価が暴落したとしても、すべて自分の責任。どんな不条理な事態が発生しても、誰にも文句は言えない。その他にも、投資は余裕資金の範囲で行い、資金管理を徹底することや、思い付きで売買するのではなく我慢強くチャンスを待つ忍耐力も不可欠である。
アンティークコイン投資を2年間続けてみて、アンティークコイン投資には他の投資とはまったく性質の異なるスキルが必要なことに気づいた。すでに何度か書いてきたが、アンティークコイン投資では、「正しいコインを適正価格で買うこと」がすべてだと言っても過言ではない。正しいコインさえ選べば、将来売る時にも苦労しないし、適正価格で購入していれば損をする可能性は極めて低いはずだ。
アンティークコイン投資の初心者が「コインは買うのは簡単だけど、売るのが難しい」と嘆いているのに何度か遭遇したことがある。買うのが簡単?このセリフは突っ込みどころ満載だ。どんなコインをいくらで買ったのか、そのコインを何年間保有したのかわからないが、初心者でも簡単に買えるコインは、「正しいコイン」ではない、つまり投資には向いていない可能性が高いということを示唆している。
アンティークコインには膨大な選択肢が存在する。どのコインを選ぶかは投資家の裁量だが、初心者に正しい選択をしろというのは難易度が高すぎる。「正しいコイン」を見分けられるようになり、オークション履歴を調査して現在の適正価格を把握し、それに見合う購入資金を用意したとしても、そのコインがすぐに買えるとは限らない。希少なコインであればあるほど、そのコインはどこへ行けば買えるのかという大きなハードルが待ち構えている。
「買うべき正しいコインを決める」スキル
投資するコインを決める前に、アンティークコインに投資する目的を明確化しておくことが重要だ。アンティークコイン投資は長期保有が基本ということは理解できていると思うが、「長期」に対する認識は人によって大きく異なる。海外の富裕層のように、子供や孫に受け継いでもらうことを想定している人は、30年どころか50年や100年をイメージしている人も少なくないと聞く。一方で長期投資と聞いて、3年から5年後に利益を確定することを想定している人もいる。
3年から5年後に売却したい人と、自分の世代では売る気がない、相続が目的の人では、おのずと対象にするコインの選び方も変わってくる。株式投資でいえば、比較的短いトレンドを捉えて数ヶ月のサイクルで利益確定したいのか、成長株を数年以上ガッチリ保有したいのかによって候補になる銘柄が変わってくると理解すればわかりやすい。「正しいコイン」を選ぶためには、まずは自分が何のためにアンティークコインに投資するのかという骨格の部分を固めないといけない。
投資に適した「正しいコイン」は1枚に絞る必要はないし、1枚だけを投資対象にするのはむしろ不自然だろう。自分が投資する期間、安心して保有できるコインはどんな条件を満たしたコインなのかを考えてみよう。この部分はアンティークコイン投資の根幹をなす部分なので、必ず自分で決めなければダメだ。株式投資でも、担当の証券マンに「どの株を買えば儲かりますか」と真顔で質問する人もいるそうだが、それでは成功するとはとうてい思えない。
富裕層であれば、コインの選定から買い付けをお気に入りのディーラーに一任する人もいるかもしれない。株式投資でいえば、プライベートバンクのファンドマネージャーに任せるような感じだ。これは金持ちだから通用するやり方であり、それを資金力のない小市民が真似るのは無理筋だ。
自分はこういう投資方針であり、投資できる資金はこの程度に限られているから、こういった条件を満たしたコインにだけ投資する。投資方針を自信を持って文章化できれば、それが自分にとっての「正しいコイン」である。そこまで到達するには、書籍やインターネットで基本知識を習得するという努力が必要になる。アンティークコインに詳しいベテランディーラーやコレクター仲間に教えを乞うのもいいが、初歩的なことを何でも聞いていては敬遠されてしまうし、コインに詳しすぎる人が相手だと、その人の好みやクセが無意識のうちに伝染する危険性もある。ある程度のレベルまでは、独学で習得することをおすすめする。
「狙ったコインを探して適正価格で購入する」スキル
アンティークコイン投資を開始してすぐに痛感したのは、狙ったコインを「買う」のがいかに難しいかということだ。いつオークションに出品されるかもわからないし、やっとオークションに出品されて入札に参加しても、予算上限(コインにもよるが、私が想定する「適正価格」の2~3割増しで設定することが多い)を超えてしまって買えないことの方が多い。
適正価格の算出が甘いと突っ込まれそうだが、それには困った事情がある。アンティークコインの相場は、コロナ禍の期間に大きく上昇した。特に、2021年はアンティークコインの専門家でさえ困惑するような異常高値が続出。2022年はその反動で若干下げたが、それでもコロナ前に比べるとかなり高い水準を維持している。希少なコインほどオークションに出品される機会は少なく、前回の落札履歴がコロナ前というケースも少なくない。コロナ前のデータとの整合性をどう考えたらいいのかわからないので、現時点の適正価格が見極めにくいのだ。
オークションに出品されるコインを監視するのは意外に簡単だ。世界中のオークションの出品情報をデータベース化している便利なサイト(NumisBidsやSIXBIDなど)がある。このようなサイトに、自分が決めた「正しいコイン」を識別できるキーワードを登録しておけば、どのオークションに出品されるがわかる。かなりマイナーなオークションまで網羅しているので、希少度がそれほど高くないコインであれば、出品されるオークションがすぐに見つかるだろう。
希少度の高いレアコインになると、なかなかそうはいかない。私が探しているあるコインは、もう2年近く監視を続けているのに、一度もオークションに登場しなかった。(コロナ前には、ヘリテージなどの有名オークションに何度か出ているのだが)オークションの監視はもちろん続けるが、いつ出てくるかわからないのを待ち続けるのは辛い。
そんな時に、やはり頼りになるのがディーラーだ。ディーラーはコレクターともいい関係を持っており、オークションになかなか登場しないようなレアコインを個人的なコネクションで引っ張ってくることもできる。ただし、一見さんがいきなりレアコインを探してくれとリクエストしても、まともに取り合ってもらえないこともある。レアコインを探すにはそれなりの手間もコストもかかるので、信頼関係が確立できてからでないと難しいかもしれない。
注意すべきこともある。複数のディーラーに同じ依頼をすると、彼らのネットワーク先でバッティングが発生してトラブルの元になりかねない。信頼できるディーラーを一人選び、「この依頼は貴方にだけお伝えしています」と筋を通した方がいいだろう。
ベテランのディーラーでも、レアコインをすぐに見つけるのは簡単ではない。彼らもビジネスだから、リクエストされたコインがなかなか見つかないとなると、それに近い別のコインを推奨してくるかもしれない。そのコインが「正しいコイン」の条件を満たす1枚であれば、提示される価格次第で購入すればいい。「正しいコイン」ではなかった場合、「これは投資対象にしているコインではない」と辞退するのか、そのディーラーとの絆を強めるために何も言わずに買うのか、決断を迫られるところだ。今後、いいコインを優先的に回してもらうための先行投資と割り切れるかどうか。
探しているコインをオークションで落札できたらラッキーなこと。オークションになかなか登場しない、登場しても予算上限で落札できないのなら、ディーラーを上手に活用してコインを探してもらうことも並行して進めたい。ディーラーの活用方法については長くなるので、改めて別の記事で深堀りしていく。