発行年・王朝 | 1847年ヴィクトリア女王 | ||
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種類(エッジ) | プルーフクラウン銀貨(アンデシモ) | ||
グレード | NGC PF61 | ||
希少度ランク | S(珍しい) | ||
入手方法 | 海外ディーラーから購入 |
「ゴチッククラウン」という名称で有名なワイオンの代表作
ウィリアム・ワイオンの代表作として有名な「ゴチッククラウン」銀貨は、1847年にヴィクトリア女王の即位10周年を記念して8000枚発行されたと言われている。実際の発行枚数には諸説あるが、全体の9割近くを占めるアンデシモエッジの鑑定枚数が1163枚(NGCが623枚、PCGSが540枚)から推測すると、現存数は3000枚から4000枚程度ではないかと推測できる。ESCの希少度ランクは「S」で、人気や価格を考慮せずに単に希少性だけをみると、それほど珍しいものでもない。
1847年銘ゴチッククラウン銀貨には、プレーンエッジのものが存在し、そちらの希少性は最新版のESCでは、スターリングシルバー製がR2、純銀製がR4とされている。2015年に出版されたESC第6版では、プレーンエッジはすべて純銀製とされていたが、2020年出版の第7版では、スターリングシルバー製と純銀製の両方が存在し、純銀製の方が希少であるという記載に変更されたという経緯がある。
第6版の「プレーンエッジはすべて純銀製」という認識が正しい可能性もあるので、自分で検証するためにプレーンエッジのゴチッククラウンを何枚か入手して、XRF検査で銀の品位を測定してみたいと思っていた。投資として考えるにしても、希少度ランク「S」のアンデシモエッジよりも、「R2」のプレーンエッジの方が適している。そんな時に、ディーラーからすすめられたのが、このアンデシモエッジ(PF61)だった。
プレーンエッジじゃないし、グレードも中途半端だし、最初は断ろうかとも思ったが、このディーラーとは今後もいいお付き合いがしたかったので、挨拶代わりに購入することにした。鑑定に出す裸の状態で撮影した写真を見て、そのトーンが気に入ったということもある。裸コインをこのように奇麗に撮影できるのは凄いスキルだと素直に感心した。この写真を見たら、つい買いたくなる人も少なくないだろう。
この頃からゴチッククラウンの価格が急激に上昇してしまったので、許容できる価格で購入できるプレーンエッジはなかなか見つからなかった。現時点でも、ゴチッククラウンのプレーンエッジをコレクションに加えることはできていない。私がプレーンエッジにこだわる理由は、プレーンエッジが発行されたことには明確な理由があり、その理由が研究で明らかになると、プレーンエッジの価格が上昇するのではないかと思うからだ。
その発行目的の一つの候補が、1851年に開催されたロンドンの万国博覧会である。私が2022年4月に落札した1826年銘パターンクラウン銀貨のオークションカタログには、非常に興味深い記述があった。ワイオンが、万国博覧会の来賓にゴチッククラウン銀貨を贈呈した、というのだ。
現品は1851年5月から10月にロンドンのハイドパークで開催された第一回国際博覧会に出展するために特別に製造された試作貨幣です。製作数1枚と記録されている大珍品です。ジョージ4世のクラウン貨にジョージ3世の1818年のクラウン貨で使用されたエッジ銘文「DECUS ET TUTAMEN ANNO REGNI LVIII/繁栄と保護の治世58年目」が陰刻されています。(通常は陽刻) この時の彫刻師は王立芸術アカデミー主任彫刻師の称号を授かったウィリアム・ワイオンであり、国際博覧会の来賓者に贈答さらたゴチッククラウン貨は彼の代表作の一つとも言えます。(原文のママ)
ざっと調べてみたが、ワイオンが万国博覧会で来賓にゴチッククラウンを配ったことを示す記録や文書は見つからなかった。英語の資料、たとえば万国博覧会の式典に出席したとされる要人の自叙伝などを調べれば何か見つかるかもしれないが、そこまで深堀りはできていない。おそらく、オークションカタログに記載された内容は、このコインの出品者の研究成果の一部ではないだろうか。残念ながら、出品者と直接コンタクトを取る手段がないので、ソースが何なのかはわからない。この内容が事実だとすれば、1847年に製造されたゴチッククラウンが1851年の時点で大量に余っていたとは考えにくいので、新たに製造されたと考えるのが自然だ。来賓への贈呈用なので、プレーンエッジでかつ純銀で製造したと考えれば筋も通る気もする。
ひょっとしたら、その時に配られたものではないかとも想像されるケース入りのプレーンエッジが、先日、海外のオークションに出品された。クラウン銀貨1枚がちょうど収まるサイズのケースには、何の文字もロゴも印刷されてはいないが、わざわざ出品者がケースと一緒に出品するということは、出品者が個人的にあつらえたケースでもなさそうだ。オークションハウスにも問い合わせてみたが、オークションカタログに記載した以外のことは一切わからない、との回答だった。
あるコイン専門家にこのケースの写真を見てもらったところ、貴重な情報を得ることができた。彼は、過去にも同じようなケースに入ったプレーンエッジの裸コインを何度か扱ったことがあるという。この写真とは表面のデザインが若干違うような気もするが、ケースのサイズや色はまったく同じだそうだ。何らかの記念にケースに入れてそれなりの数を配った可能性は高い。それがロンドンの万国博覧会の時だったのか、配ったのがワイオン本人だったのかも含めて、すべて憶測に過ぎないのだが。
ゴチッククラウンが発行されたとされる1847年は、今から176年前のこと。紀元前から続くコインの歴史からすれば、ごく最近のことでしかない。「世界一美しい銀貨」と称賛される有名な銀貨であるにもかかわらず、まだまだ謎は多い。だからアンティークコインは面白い。