発行年・王朝 | 1824年ジョージ4世 | ||
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種類(エッジ) | パターンクラウン銀貨(プレーン) | ||
グレード | NGC PF64 | ||
希少度ランク | R4(現存数11~20枚) | ||
入手方法 | 海外ディーラーから購入 |
ジョージ4世新肖像のデザインを決めた1824年銘の試作貨
ワイオンが彫刻したジョージ4世新肖像の銀貨は1825年から本格的に流通が始まった。ハーフクラウン銀貨は1825年から、シリング銀貨は1825年の途中から、6ペンス銀貨は1826年から量産されている。切り替わる前の旧肖像は、頭に月桂冠を頂いていたため「Laureate Head」と呼ばれるのに対して、フランシス・シャントレーの胸像を元に描かれたジョージ4世の肖像は、頭に王冠も月桂冠も乗せられていない裸の頭だったので「Bare Head」と呼ばれている。オークションカタログなどでは、新肖像のコインをストレートに「Chantrey」タイプと表現しているケースも少なくない。
シリング銀貨は、1825年当初は旧肖像のコインが製造されたが、途中で新肖像のものに切り替わった。1825年銘シリング銀貨には旧肖像と新肖像の2種類が存在する。一方、ハーフクラウン銀貨については、1825年銘は新肖像のものだけである。ハーフクラウン銀貨が一番スムーズに新肖像に切り替えられたのは、このパターンハーフクラウン銀貨のおかげだろうと思われる。
ワイオンは、新肖像のデザインを決めるために、1824年には2種類のパターンを制作した。一つはこのパターンハーフクラウン銀貨、もう一つは下に掲載したパターンシリング銀貨である。この2つを見比べると、肖像が描かれている表面のデザインが違うことが一目でわかる。さらに、1825年銘のパターンシリング銀貨を並べて見ると、肖像面のデザインとして1824年銘のハーフクラウン銀貨の案が採用されたことがわかる。
このパターンハーフクラウン銀貨の肖像面は、その後に流通貨として量産されたハーフクラウン銀貨、シリング銀貨、6ペンス銀貨、さらには1826年プルーフセットに収められたプルーフクラウン銀貨にそのまま使われている。1824年時点では肖像面のデザイン案は2つあったが、このパターンハーフクラウン銀貨がジョージ4世に気に入られて、新肖像のデザインが決定されたのではないか。
このパターンの完成度があまりにも高かったため、ほとんど修正する必要がなく、1825年の頭から新肖像に切り替えることができた。新肖像のデザインが確定した後、シリング銀貨についても1825年銘のパターンが作り直され、それが国王に承認されるや、1825年の途中からシリング銀貨も新肖像に切り替わったのだろう。もしそうであるならば、この1824年銘パターンハーフクラウン銀貨は、新肖像デザインを決定づけた歴史的に非常に意味の大きな試作品といえる。
ワイオンが1851年に逝去した際、ワイオンが保有していたパターンやプルーフの一部は、息子のレナードを通じてロイヤルミントに寄贈されたという。レナード自身もコインコレクターであったので、ワイオンから譲り受けた希少なコインを数多く保有していた。レナードの死後、1901年12月に「L.C. Wyon Collection(レナードコレクション)」が競売にかけられた。そのオークションカタログには、ジョージ4世時代のパターンとして、1825年銘クラウン銀貨と1824年銘ハーフクラウン銀貨(いずれもプレーンエッジ)が収録されている。ワイオン本人も、それを受け継いだレナードも、この2枚のパターンはワイオンの功績を伝える重要なピースであると認識していたことだろう。
イギリス銀貨のカタログEnglish Silver Coinage(ESC)を見ると、なぜかこのパターンにはミルドエッジ(いわゆるギザ縁)のものが存在する。ハーフクラウン流通貨のエッジにはギザが入っている。このギザは、コインのエッジを削り取って銀を搾取する「クリッパー」や偽造者による改ざんを防止するために、17世紀末、当時ロイヤルミントの局長だったアイザック・ニュートンによって導入された仕様である。
試作貨や贈呈用のパターンは、ギザが入っていないプレーンエッジのことが多い。おそらく、当初はプレーンエッジとして作られたが、採用が決定された後に、流通する完成品と同じものを見せるために、ごく少数のミルドエッジが追加で作られたのではないだろうか。2023年7月に開催された国内オークションで、1848年銘パターンフローリンのミルドエッジが出品されたが、カタログでは1949年銘のいわゆるゴッドレスフローリンに採用されたデザインのパターンにのみ、ミルドエッジが少数存在すると説明されていた。
ミルドエッジは本当に実在するのかなと思っていたら、マードックコレクションには、プレーンエッジとミルドエッジがセットで出品されていた。さすがマードックコレクションである。将来、ミルドエッジを入手する機会があれば、ぜひともチャレンジしてみたい。
マードックコレクションのカタログでは、購入元として来歴が記載されているコインが多い。1901年12月に開催されたレナードコレクションで落札したコインも散見される。マードックは1902年になくなるまで、コレクションをより高めたいという執念は衰えることはなかった。プレーンエッジの来歴はレナードコレクションとは別の情報が記載されていた。ということは、レナードコレクションのプレーンエッジとは別個体であると考えるのが自然だ。
このパターンハーフクラウン銀貨の希少度ランクはR4で、現存数は11~20枚程度とされている。現時点での鑑定済みコインの枚数は、NGCが4枚、PCGSは2枚の合計6枚となっている。ただし問題があって、実はNGCではプレーンとミルドを区別しておらず、NGCの4枚の中には少なくとも1枚のミルドが含まれている。PCGSの2枚はちゃんとプレーンと明記されている。以前から感じていたことだが、NGCの分類は大雑把というか、かなりいい加減だ。
あるディーラーが、日本の円銀を鑑定に出すならPCGS一択だと言ってた。NGCでは、たとえば「有輪」や「無輪」などの細かい分類がされておらず、スラブのラベルにはバラエティーや手変わりの情報が一切記載されないからだという。このパターンハーフクラウン銀貨についても、エッジの大きな違いであるプレーンとミルドを区別しないのはいかがなものかと思う。
話が逸れてしまったが、このパターンハーフクラウン銀貨(プレーンエッジ)の鑑定数は最大で合計5枚。ここから推測される現存数は、その2倍から3倍にあたる10枚から15枚程度と思われる。
現存数と鑑定数の関係は、有名なウナとライオン5ポンド金貨を例にするとわかりやすい。ウナとライオンの発行枚数は、諸説あるが約400枚というのがコイン業界における共通認識である。現時点での鑑定数はNGCとPCGSを合わせて123枚。あるディーラーは、現存数は鑑定数の約2倍だと推測している。ウナとライオンのような超人気コインであれば、鑑定でいい数字が付けば価値が跳ね上がるので、鑑定に出される割合が高いと見られるためである。
希少度がそれほど高くなく、市場価格も高くないコインは、鑑定してコインをスラブに閉じ込めようと思わないコレクターも欧州を中心に多く存在する。そのようなコインについては裸のまま現存する枚数の割合が高くなるので、鑑定数の3倍くらいと見積もった方がいいかもしれない。(プルーフやパターンではない一般の流通貨の場合は、さらに現存数の割合は大きく上昇すると思われる。)
いずれにしても、このパターンハーフクラウン銀貨は、鑑定数の3倍現存すると試算しても15枚止まりなので、R4(現存数11~20枚)という希少度ランクは妥当なものと判断できる。今後、裸コインが鑑定されていくにつれて、鑑定数は徐々に増えていく。いずれは、現存数は鑑定数の1.5倍から2倍程度という見方に修正されるようになるだろう。
私の1824年銘パターンハーフクラウン銀貨は、一応ファイネスト(最高鑑定)なので、この個体がマードックコレクションもしくはレナードコレクションの1枚だった可能性もあるかもしれない。